1963年日活
91分
ヤクザの下っ端のチンピラ青年とお金持ち令嬢の身分違いの純愛を描いた青春ドラマ。
梶原一騎原作・ながやす巧作画の『愛と誠』とよく似た設定だが、相思相愛への道のりはもっと単純で、殺傷シーンはあるものの任侠調でも劇画調でもない。もしろん、学園物でも。
不良学生に絡まれている令嬢を助けたのが出会いのきっかけとか、雪原の心中で終わる美しいラストとか、70年代の少女漫画のノリを思わせる。
原作は藤原審爾の短編小説。藤真利子の父親とは知らなかった。
チンピラ青年を演じる浜田光夫がどうにもミスキャスト。
そう言えば、『潮騒』の浜田光夫もちっとも漁師らしくなかった。
まあ昔も今も、吉永小百合の相手役は小百合より目立ってはいけない不文律があるだろうから、これくらいの演技がいい塩梅なのかもしれない。
世間知らずの令嬢を演じる吉永小百合は役柄的にふさわしいが、肝心の恋する女を演じきれていない。
チンピラに岡惚れしようが、面と向かって「好き」と告白しようが、手に手を取って駆け落ちしようが、周囲の探索の目を逃れて二人して安アパートに隠れようが、あくまでも「清純」という掟がついて回るので、恋することによる表情や仕草や眼差しの変化がまったく表現できていない。
逃避行したアパートで二人して何をするかと思えば、折り鶴を一緒に折って、それから、「謎々しましょ!」って・・・・・視聴者を馬鹿にしているのか。(といきり立つのはなぜだ?)
「清く、正しく、美しく」の小百合を楽しむアイドル映画として観るのが正解。
光夫の兄貴分を演じる小池朝雄の渋味ある落ち着いた演技が光っている。この人は刑事コロンボの声で有名だった。
ソルティは、中学生の時に富本壮吉監督による1977年版『泥だらけの純情』を劇場で観た。
こちらは、山口百恵&三浦友和のゴールデンコンビ。
が、内容も感想もまったく覚えていない。
ほんの1カットも記憶に残っていない。
その理由は、同時上映が大林亘彦監督の劇場映画第一作『HOUSE/ハウス』だったからだ。
『ハウス』の衝撃が、観たばかりの『泥だらけの純情』を吹き飛ばしてしまった。
中学生じゃそれまでにTV中心に観た映画の数などたかが知れているものの、それでも、「こんな日本映画は観たことない、こんなホラー映画は観たことない、こんなアイドル映画は観たことない」と思った。
どれくらいインパクトあったかと言うと、たった一回こっきり観ただけのこの映画のBGM(小林亜星作曲)をいまだに口ずさめるくらい。
売り出し中の大場久美子の可愛さも、画面いっぱいにさらされた池上季実子の美乳の衝撃も、空手の型をとる神保美喜の勇ましさも良かったけれど、やはり圧巻は南田洋子だった。
婚約者の戦死を信じず、その帰りをひたすら待つために屋敷(ハウス)と一体化し、訪れた生娘を喰らうことで若返りをはかるという、蝶々夫人(あるいは岩壁の母)と「血の伯爵夫人」エリザベート・バートリを合わせたような役柄を、美しくも恐ろしく、哀しくも艶やかに演じ、その女優力は大場らピチピチガールズ(昭和オヤジ表現だあ)を圧倒していた。
思えば、コメディタッチと失われた時間への郷愁という大林映画の特徴は、すでにここに示されていた。
中学坊主が受け止めるには重すぎるこの愛執の物語の前で、チンピラとお嬢様の恋愛ごっこなんか、一瞬にしてはじけ飛んでしまったのである。
このときから大林亘彦のファンになった。
おすすめ度 :★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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