2005年フランス映画。

 恋も仕事も順風満帆の31歳にして、余命3ヶ月のがん告知。
 そのとき、人はどういう状態に陥り、どういうふうにして自らの死と向き合っていくのか。

 誰に事実を告げるか。
 残された日々をどう過ごすか。
 何を捨てて何を残すか。
 どこでどのように死ぬか。
 自分の気持ちをどうやって整理するか。

 ゲイの写真家であるロマンの選択は、世間一般の選択とはかなり異なる。
 彼は、家族にも恋人にも友人にも伝えない。恋人には別れを告げる。喧嘩していた姉と和解する。たまたま知り合った不妊症のカップルと3Pをして精子を提供し、生まれてくる子供に財産のすべてを遺贈する。
 そして、海水浴客で賑わう夏の砂浜で、ひとり海を眺めながら死んでいく。
 もはや思い残すこともなく、自らの死を超然と受け入れながら。

 百人いれば百通りの死のデザインがあるだろう。
 どれが正しくてどれが間違っているということではない。
 どれが幸せでどれが不幸なのかも傍からはわからない。
 あるALS(筋萎縮性側索硬化症)の男性が、自分をそのような体に生んだ両親を呪いながら、自分の苦しむさまを両親に見せつけながら亡くなっていったという話を聞いたことがある。それは本人にとっても、両親にとっても、周りで看取る者にとっても、悲惨なやりきれない死の選択である。
 だが、それを非難する資格も権利も第三者にはあるまい。

 できれば、最終的には自らの生を肯定できないまでも受け入れて(諦めて)、その終焉を納得し、安らかな気持ちで息を引き取っていきたいものである。
 そのためには、ロマンがやったような自らの死のデザインが重要なのであるが、その前提として絶対に欠かせないものがある。
 己れの怒りや悲しみや絶望や混乱などの感情を吐き出せて、受けとめてもらえる誰かの胸である。

 ある人の場合、それは神なのかもしれない。仏なのかもしれない。両親や恋人や友人やカウンセラーなのかもしれない。あるいは、同じ病気で同じ運命を背負った仲間なのかもしれない。
 ロマンの場合、それは郊外の森の中に独り住む祖母ラウラ(ジャンヌ・モロー)であった。ラウラにすべてを打ち明け、ロマンははじめて泣くことができたのである。
 ジャンヌ・モローは、出番は少ないがとても重要なこの役を彼女自身の持つ存在感だけで演じきっている。演技とは思われないほどの深さとあたたかさは、その顔に刻まれた皺と同様、彼女の波乱に富んだ人生経験、俳優経験を通して自然と涵養されたものであろう。ラウラが寿命としての死を日々見つめながら孤独に毅然と暮らしていることも、ロマンが心を開く相手として選ぶ理由になっているのだろう。
 老人力とは本来このようなものなのかもしれない。

 人の死のデザインをとやかく言うのは無粋なのであるが・・・。

 ロマンが神にたよらなかった点はよく理解できる。
 キリスト教が同性愛を否定する以上、ゲイとしての自分を肯定して社会生活を営んできたロマンが、その死に際して教会や神父や聖書や十字架の支えを必要としなかったのは当然といえば当然である。
 一方、カップルの子作りに協力することで、自らの遺伝子、血統、子孫、子供を残して安堵するというところが、いきなり「種の保存」欲求にでも目覚めたみたいで釈然としない。
 もちろん、ゲイ(♂)が父親になっていけないわけではない。現に結婚して父親になっているゲイなど掃いて捨てるほどいるだろう。女性の腹を借りて血のつながりのある子供を持つゲイカップルだっている。ゲイであることと、父親であることは、必ずしも背反しない。
 しかるに、ロマンの場合、それまで子供にほとんど関心がなかったにも関わらず、死に臨んで急にそういう欲望に目覚め、自分の子供を残すことによって安心を得て自らの死を受け入れる、いわゆる「命のバトン」みたいな常套的展開になってしまうのが、なんだか残念な気はする。ゲイアイデンティティに対する裏切りのような感じ・・・?

 とはいえ。
 実際に死を前にしたときに、自らの築いてきたアイデンティティなんか簡単に崩壊するかもしれない。
 自分がどうなるかわかったものじゃない。

 ある意味では、若くして自分の死をデザインできる機会を得るということは幸せなのではないだろうか。
 通常そういう機会は、老年になってから訪れるものであるが、そのときには老齢ゆえにさまざまな選択肢が失われていることが多いからだ。子供を作るなど、まさにその一つである。デザインしようにも設計できる幅がもうせばまっている。和解したかった相手も、もうとうの昔にあの世に逝っているかもしれない。

 自分の死をどうデザインするか。
 それは結局、「自分の残された生をどうデザインするか」と同義である。



評価: B-

参考: 

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 

「東京物語」 「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。

「風と共に去りぬ」 「未来世紀ブラジル」 「シャイニング」 「未知との遭遇」 「父、帰る」 「フィールド・オブ・ドリームス」 「ベニスに死す」 「ザ・セル」 「スティング」 「フライング・ハイ」 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」 「フィアレス」 ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。

「アザーズ」 「ポルターガイスト」 「コンタクト」 「ギャラクシークエスト」 「白いカラス」 「アメリカン・ビューティー」 「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。

「グラディエーター」 「ハムナプトラ」 「マトリックス」 「アウトブレイク」 「タイタニック」 「アイデンティティ」 「CUBU」 「ボーイズ・ドント・クライ」 チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)

「アルマゲドン」 「ニューシネマパラダイス」 「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ~。不満が残る。

「お葬式」 「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった

「レオン」 「パッション」 「マディソン郡の橋」 「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!