1968年 制作:近代映画協会 配給:東宝

 時は平安、舞台は京の羅城門。
 と来れば、魑魅魍魎の跋扈する怪しの世界と決まっている。
 しかも、「黒猫」である。本邦なら入江たか子の化け猫シリーズを連想するし、アメリカならエドガー・アラン・ポーである。大島弓子の『綿の国星』もある。
 ぞくぞくする面白さを期待できよう。

 カラーでなく、あえてモノクロで撮っているのは正解。
 平安の闇の底知れない不気味さともの哀しさとが豊かな陰影のうちに見事に描き出されている。太地喜和子演じる女の霊がその夜の犠牲者となる侍を案内して竹林を歩くシーンなど、真っ直ぐに立ち並ぶ竹がつくる檻のような黒い縦格子を透かして、淡い月の光の中を歩む二人の影が、まさにこの世からあの世への、現実から夢幻世界への、道行きのようである。息を呑むような美しさと緊張感は、新藤の師匠であった溝口健二の『雨月物語』に決して劣らない。

 役者もみな達者である。
 とりわけ、太地喜和子の美しさが光る。
 この女優は演技の巧いことは言うまでもないが、美人ではない。どころかむしろ、不美人の部類に入ると言ってよい。
 だが、「女」を演じた瞬間から、造形の善し悪しをいっさい不問にしてしまい、「きれいな、いい」女になってしまう。「きれい」もまた演技の力であることを、この人ほど証明している女優はない。
 いや、いた。田中裕子もそうだ。『ガラスの仮面』の北島マヤもそうだ。 
 演技力は別としても、平板な太地の顔は「引き目、かぎ鼻、おちょぼ口、下ぶくれ」を理想とする平安美人に似つかわしい。
 発声も所作も印象的で、新藤監督の妻にして生涯の仕事上の相棒たる乙羽信子を食っている。太地は物語の途中で消えてしまう(地獄に堕ちてしまう)が、太地が画面から姿を消したあとの画面全体の妖美さの消失は否めない。
 
 『原爆の子』や『第五福竜丸』(→ブログ記事http://blog.livedoor.jp/saltyhakata/archives/6114889.html )など社会的テーマを描くことの多い新藤監督であるが、この映画もたんなる怪奇ものでも悲恋ものでもない。大黒柱を戦に取られ、貧苦に苦しみ、侍達に陵辱された揚げ句に家ごと焼き殺された女二人の、戦に対する憎しみ、戦を行う侍達に対する尽きない恨みが、二人の霊を黒猫に化身させ、妖怪を生んだのである。
「この世に戦をする侍どもがいる限り、私はその生き血を吸い続けなければならない」と言って姿を消す乙羽信子の声に、本当の悪は妖怪や幽霊に属するのではなく、それを生み出し続ける現実社会の側にあることを、白黒反転させて、映画は終わる。




評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!