ジーブス 1974年刊行。
 2012年日本語訳発行。

 ドジで抜けてて暢気でお人好し、騎士道精神と友愛精神に満ちた愛すべき英国紳士バーティことバートラム・ウースター青年と、才気煥発にして謹厳実直なる有能な執事ジーヴスの名コンビが、英国有閑階級の日常を舞台に縦横無尽に活躍する、抱腹絶倒なるシリーズの一編である。
 93歳という長寿をまっとうしたウッドハウスが最期に書き上げた作品であると同時に、国書刊行会から発行されたジーヴスシリーズ全14巻の最終巻である。もう次がないと思うと残念だけれど、忘れた頃にまた読みかえして爆笑するは必至なので、早く忘れよう。

 ウッドハウスの作品、ことにこのジーヴスシリーズを読んでいて誰でも気づくであろうことは、登場する女性達の気の強さである。我らが主人公バーティーはもちろん、バーティーの一癖も二癖もある友人達も、中には2メートルを超える巨体とラグビーでならした馬鹿力を誇る輩も出てくるのであるが、紳士だろうが実業界の大立て者だろうが会社員だろうが登場する男達のいずれもが、苦手とする女性を持っていて、彼女たちにちょっとした偽りやら失態やら旧悪が露見するのを魂が震えるほどに怖がっているのである。それがこのドタバタ喜劇を進める重要な枷の一つになっているのだが、作品世界の中で男達は母親にいたずらがばれて怒られるのに怯える少年達そのものである。

 この女性上位はウッドハウス作品の特徴なのか、英国有閑階級の特徴なのか、それとも英国社会の特徴なのか。
 自分は英国文化に詳しくないが、どうも英国社会は女性天下という気がする。
 何と言ってもイギリスは女王の国という印象が強い。男の王様ももちろんあまたいたけれど、世界に名だたる大英帝国を実現したのはエリザベス1世しかりビクトリア女王しかり、女王が統治する御世だった。男の王たちの印象と言えば、再婚するために宗旨替えしたり(ヘンリー8世)、男色を嗜んだり(ジェームズ1世)、どもりで悩んだり(ジョージ6世)、となんとなくお間抜けな逸話が多い。
 また、女性の政治リーダーで最も有名かつ有能なのはサッチャー首相であろう。英国病に苦しみタイタニック同然に沈没せんとするイギリスを、「鉄の女」と言われたその強硬な手腕で再び世界のリーダー格に甦らせた人物である。

 女性に仕切らせたほうが物事は上手くいくと英国の男達は分かっているのだろうか。
 そして、そのほうが自分たちは好きな趣味に没頭できるということも。

 ウッドハウス作品に出てくる男達のマニアックな趣味はまったく「オタク」そのものである。

 『強い女とオタクの男の国、イギリス』

 日本もいまそうなってきている。