2010年デンマーク・スウェーデン合作。

 パソコンの調子が悪かったので、思い切ってリカバリした。使用している最中にいきなりシャットダウンしてしまうのである。
 原因はCドライブの容量不足だろうと思った。わけのわからない様々なプログラムファイルやアプリケーションソフトでメモリの95%が埋まっていたのである。
 リカバリディスクを使って、いったんOSであるWINDOWS―XPをさらにし、購入時の状態に戻した。Cドライブの空き容量がぐっと増えて、70%くらいのスペースが生まれた。
 立ち上げてネットをつないでみると、シャットダウンは起こらない。成功だ。
 しかし、しばらく使って気づいたが、やっぱりどっかおかしい。速度が遅いし、アクセスできないサイトが増えた。
 セキュリティの問題? ハード(パソコン本体)の寿命? それともウイルス?
 WINDOWS-XPは来年の4月でサポート終了すると言うし、そろそろ替え時なのかもしれない。
 にしても、このWINDOWSの独占状態は面白くない。ビルー・ゲイツ=マイクロソフトの思うがままに新しいOSやパソコンやウイルス防御ソフトを全世界の人が買わされるとは。
 このOSの支配から逃れる手はないものだろうか。

 この映画の原題(原作)はSUBMARINO(潜水艦)
 海面に浮き上がることなく潜航する船のごとく、深いところで心を支配するトラウマといったところか。あるいは、暗い水底に生きることをさだめられた者たちといったところか。
 ニックとニックの弟(作品中で名前が呼ばれない)は飲んだくれの母親から虐待を受けて育った。育児放棄する母親の代わりに、二人は赤ん坊の弟マーティンの面倒をかいがいしく見るのだが、ふとしたことで死に至らしめてしまう。
 それから数十年。ニックは常に行き場のない怒りと締め付けるような罪悪感を抱えながら孤独に生きている。暴力沙汰で警察の厄介になる。女性との関係もうまくいかない。一方、弟のほうは亡くなった妻との間にできた一人息子‘マーティン’を目の中に入れても痛くないほどに可愛いがりながら、麻薬をやめることができず自堕落な生活を送っている。没交渉に暮らす兄弟はそれぞれに過去のトラウマにとらわれ、幸福を手に入れることができない。
 母親の死をきっかけに兄弟は再会を果たす。それ以降、二人の人生はまたしても暗闇のほうへと引き摺り込まれていく。ニックは殺人を犯した友人の罪をかぶって刑務所に収容され、怪我した片手を切断するハメになる。麻薬の売人となった弟は街で捕まって、収監される。こともあろうに刑務所で再会する兄弟。絶望した弟は自殺してしまう。
 どんなに頑張っても、どんなに気をつけて生きていても、同じ轍にはまって水底へと引き戻される二人。
 過去のトラウマから逃れるすべはないのか。
 光のほうへ進む手立てはないのか。

 兄弟のトラウマの最たるものが弟マーティンの死であるのは確かである。愛する者を自らの過失によって死なせてしまったことの罪悪感と癒されようのない悲しみが、二人のその後の人生に深く暗い影を落としている。
 しかし、たとえマーティンが死ななくとも二人の人生はやはり厳しいものであったろうことは想像にかたくない。赤ん坊の存在が唯一の救い=光であったほど、兄弟の子供時代は悲惨なものであった。母子家庭で、飲んだくれの母親は気分次第で子供を殴る。家の中は荒れ放題。二人の育った環境はとても愛情に満ちたものとは言えない。


 人の性格をつくるのは遺伝的要因と環境的要因とどちらが強いのかわからないけれど、遺伝的要因も含めた幼少時の家庭環境こそが、子供の性格や長じてからの周囲との人間関係や生き方に多大な影響を及ぼすのは間違いない。「三つ子の魂百まで」とか虐待の連鎖とかは、まさにそのようなことを言っている。その意味で、幼少時の家庭環境は個人の生におけるOS(オペレーティング・システム)なのである。
 OSは簡単に変えることができない。リカバリして同じWINDOWS-XPを組み込むことしかできないように、失敗してやり直そうと頑張ってみたところでOSそのものを換えることはできないので、結局同じような結果=過ちに行き着いてしまう。OSに不備がある以上、その上にどんなに性能の良い優れたソフトを載せようが、早晩うまく働かなくなるのは目に見えている。
 OSを捨てること、OSを換えることは非常に難しい。
 なぜなら、人はOSの上に、OSを基盤として、「自我プログラム」を起動させるからである。その自我プログラム「WATASHI」こそ、その人の人生をつくっていくメインソフトなのである。
 人生がうまくいかない。人生に行き詰った。人間関係でいつも同じような失敗をする。
 そう気づいて、一からやり直ししようとしても、その「一」とは結局リカバリしてOSに立ち戻るだけのことである。それを実行する主体は「自我プログラムWATASHI」である。これでは「生まれ変われる」わけがない。 
 枝の上に乗ってその枝を伐採することはできない。
 WATASHIがWATASHIを修正することはできない。

 どうすればこの無間地獄から抜けられるのだろう?

 薬物依存症患者の回復過程の中でよく聞く言葉に「底つき」というのがある。
 家族や友人から見捨てられ、仕事も人間関係も生活そのものも破綻し、自分で自分をどうしようもなくなって「落ちるところまで落ちた」状態、絶望のどん底である。
 このような状態に至ってはじめて回復への希望が生じるのだと言う。
 薬物依存症に苦しむ人たちの回復プログラムで世界的に有名なのが「12ステップ」である。

1. 私達は薬物依存症に対して無力であり、生きていくことがどうにもならなくなったことを認めた。
2. 私達は自分より偉大な力が、私達を正気に戻してくれると信じるようになった。
3. 私達の意志と生命の方向を変え、自分で理解している神、ハイヤーパワーの配慮にゆだねる決心をした。
4. 探し求め、恐れることなく、生きてきたことの棚卸表を作った。
5. 神に対し、自分自身に対し、もう一人の人間に対し、自分の誤りの正確な本質を認めた。
6. これらの性格上の欠点をすべて取り除くことを、神にゆだねる心の準備が完全にできた。
7. 自分の短所を変えて下さい、と謙虚に神に求めた。
8. われわれが傷つけたすべての人の表を作り、そのすべての人たちに埋め合わせをする気持ちになった。
9. その人たち、または他の人びとを傷つけないかぎり、機会あるたびに直接埋め合わせをした。
10. 自分の生き方の棚卸を実行し続け、誤った時は直ちに認めた。
11. 自分で理解している神との意識的触れ合いを深めるために、神の意志を知り、それだけを行っていく力を祈りと黙想によって求めた。
12. これらのスッテプを経た結果、霊的に目覚め、この話を他の人達に伝え、またあらゆることに、この原理を実践する様に努力した。

 このステップが意味するのは「自分の放擲」、すなはち「自分より偉大な力」に身を完全にあずけ「自我」を解体すること。「WATASHI」によって「私の生」をどうにかしようという小細工をいっさい諦めることである。
 そのようにしてはじめて、OSがありのままの姿を浮上させ、プログラム上の欠陥やバグが明瞭になる。自分は今まで「自分の力と意思と」によって自由に生きてきたと信じ込んでいたけれど、実のところ、知らないうちに、前もってOSに書かれたプログラムどおりに動かされてきたのだという「気づき」が生まれる。
 その「気づき」がOSを解除する鍵となる。

 依存症患者のみならず、人は誰しも大なり小なり、良くも悪くも、OSの支配下にある。良いOSが搭載されるか、悪いOSが搭載されるかは運としか言いようがない。あるいは業(KARUMA)としか・・・。
 できれば、悪いOSを搭載されてしまった人が「底をつく」前に、取り返しのつかない状況に至る前に、そのようなシステム(=MUMYOU)に気づいて軌道修正というか、「生まれ変わる」ことができれば、この世にしんどい思いをする人はもっと少なくてすむのだろうが、痛い目に会わないとなかなか現実に目が開かれないのが人間、というか自我である。
 ニックの弟のように、OSに振り回されるだけで終わってしまう人生は、あまりに悲しすぎる。

 一方、子供のOSをつくるのに関わるのは、遺伝だけではなく、両親だけでもなく、家庭環境だけでもなく、その子供に関わる隣人やご近所や教育施設や福祉制度であるということも忘れてはなるまい。
 



評価:B-


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」 

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!