1964年大映。

 昭和キネマ横丁の一本。
 原作は『愛の渇き』同様、三島由紀夫。読んでいないが、中年夫婦と青年の奇態な三角関係を描いたドラマである。
 身体&知的障害を負った夫と美貌の妻、その妻を慕う若さ溢れる男の共同生活というと、どうしたって『チャタレイ夫人の恋人』を連想させる。あるいは、水上勉の(小柳ルミ子の)『白蛇抄』を。
 不能となった夫に満足できない妻は、滝に打たれたり、夜な夜な自ら慰めたり、水浴する若い同居人の逞しい裸体を覗き見したり・・・・。一方、女主人に恋慕する青年は、日夜悶々としながら覗きや下着いじりなどのストーカー行為に励み、最後は性欲に負け獣に堕ちて禁断の垣根を乗り越えてしまう。
 世の男たちのエロティックな妄想を逞しくさせるシチュエーションの一つである。
 しかも人妻を演じるのが若尾文子ときては、オカズになりそうなシーンを期待するなというのが無理というものである。
 しかし、そんなものはないのである。
 
 三島が描きたかったのは、そんな通俗的な直木賞的なテーマでは断じてなかった。愛憎をめぐる人間の不可思議さであり、対幻想に収斂する近代的な男女の関係にはおさまりきれない人間の情と業とプライドと依存と執着と孤独と退屈の物語であったのである。三島の頭の中には、夫一平と自分を慕う早稲田の学生と三者で共同生活した美貌の小説家岡本かの子(岡本太郎の母)の姿があったのではなかろうか。
 女遊びを繰り返す夫に虐げられているように見えながら、最終的には夫も年下の男も手玉に取って自分の思いの性愛関係を作り上げる主人公優子を、若尾文子が美しく、したたかに演じている。
 若尾文子が演じて優れるのは、日本的な耐える女、因習に閉じ込められた女ではない。
 そのように見せかけながら、上手にエゴを貫き通す、したたかな、しかし哀れな女なのである。
 M(マゾ)の支配力とでも言おうか。


 監督の富本壮吉ははじめて聞く名前であるが、土曜ワイド劇場『家政婦は見た』シリーズの第1~6作までを撮っている。家庭内のおぞましき秘密を撮るのはお手のものというわけだ。



評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」     

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
   
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!