1960年松竹。

 大島渚は日本が世界に誇る名監督である。
 が、恥ずかしながら主要な作品をほとんど観ていない。
 安部定事件を題材に男女の性愛の極限を大胆に描いて国際的な名声を得た『愛のコリーダ』(1976年)あたりから、その名を意識するようになったのだが、むろん『コリーダ』は不完全な形でしか観れていない。
 デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけし出演で世界的大ヒットとなった『戦場のメリークリスマス』(1983年)は、さほど感動しなかった。シャーロット・ランプリングの魅力全開の『マックス、モン・アムール』(1987年)、新撰組の男色模様を描いた松田龍平デビュー作『御法度』(1999年)は文句なく面白かった。
 これら晩年の作品のみで――それらがいかに傑作であろうとも――大島渚を云々するのは、あまりにも乱暴で、鼻持ちならない所業であろう。
 が、自分の中で印象付けられたのは、「品格のある作品を撮る人」というイメージであった。

 大島渚のもっとも熱い時代を自分は知らない。作品も観ていない。
 松竹ヌーヴェルバーグの旗手と言われるきっかけとなった『青春残酷物語』(1960年)、日米安保闘争を描いた『日本の夜と霧』(1960年)、死刑制度の矛盾や韓国人差別を描いた『絞死刑』(1968年)など、反権力のスタンスで社会性の強い作品を世に送り続けた大島監督の真骨頂は、やはり60年代にあるというべきだろう。
 『太陽の墓場』はまさにその一つである。


 舞台は撮影当時(1960年)の大阪釜ヶ崎(今の「あいりん地区」)。東京の山谷、横浜の寿町とならぶ日本三大ドヤの一つである。
 戦後の匂いがぷんぷんと立ち込める釜ヶ崎で、不法な仕事をしながらその日暮らしの生活を送る人々をリアルに描く。
 主役に抜擢された新人・炎加世子が光っている。男勝りで、刹那的で、うかつに触れればスパッと切られるように激情的で、セックスアピール抜群の女・花子を、体当たりで演じている。相手役の武を演じるのは佐々木功。なんと「宇宙戦艦、ヤ~マァ~ト~♪」の歌手である。もともと俳優だったのだ。役柄のせいもあると思うが、悪に染まりきれない文系のイケメン青年ぶりは好ましい。
 ほかにも、判淳三郎、渡辺文雄、小池朝雄(コロンボ刑事の声)、津川雅彦、川津祐介、小松方正、田中邦衛、左卜全、浜村純など、今にしてみれば個性派スター総出演の豪華さ。愚連隊のボス・信を演じる津川雅彦は、「カッコいい」の一言に尽きる。若き日のデヴィ夫人が恋に落ちるのも無理もない。

 売血、売春、強盗、レイプ、殺人、死体遺棄、戸籍売買、人買い、殴りこみ、手榴弾の爆発・・・・と、何から何まで無法だらけの、登場人物すべてがキ印と思えるほどの、壮絶な内容である。これとくらべると、80年代の山谷の騒動を描いたドキュメンタリー『山谷 やられたらやりかえせ』は、3チャンネル(NHK教育テレビ)に思えるほど行儀がよい。
 実際、よく撮れたなあ、よく上映できたなあ、と思う。いまこの作品を公開上映したら、「健全な若者に悪影響を及ぼす」と、どこからか文句が出そうな気がする。
 しかし、である。
 自分はやはりここにも大島監督の「品格」を感じたのである。

 テーマや内容とは関係のないところで、大島監督の作品は品がある。
 たとえばそれは、レイプシーン。犯されている女子高生のショットそのものずばりは撮らずに、それを遠めで見ている花子と武の表情を映すところ。線路上で取っ組み合っている武と信が列車に轢き殺されるシーン。近づいてくる列車はまったく撮らずに、列車の響きと線路脇で二人を見ている花子の動きを映すところ。露骨なエログロシーンは出てこない。
 考えてみれば、『マックス、モン・アムール』(=オランウータンと美しき人妻との恋、下手すれば獣姦)も、『御法度』(=新撰組に忍び入る男色)も、もちろん『愛のコリーダ』(=チンチンをちょん切る女の話)も、内容そのもの、テーマそのものは決して品のあるものではない。むしろ、撮りようによってはいくらでも下品に陥る危険、エログロになる可能性はあった。
 そうはならなかったのは、ひとえに大島渚の資質や才能によるものだろう。
 品だけは隠せない。



評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
    
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!