2013年アメリカ・イギリス映画。

 『SHAME シェイム』の監督によるアメリカの奴隷制をテーマにした歴史ドラマ。
 第83回アカデミー賞の作品賞を受賞している。 

1841年、ニューヨーク州サラトガで‘自由黒人’として妻子と共に平和に暮らしていたヴァイオリン奏者であるソロモン・ノーサップ(=キウェテル・イジフォー)は、奴隷斡旋者の甘言に乗せられて故郷を離れワシントンに出向く。その晩、薬漬けにされたソロモンは、気がつくと手枷足枷はめられ監禁され、そのまま南部の綿農園に奴隷として売られてしまう。それから身元が保証され解放されるまでの12年間、彼を待ってたいたのは過酷な奴隷生活であった。

 まず、‘自由黒人’というのにちょっと驚いた。
 が、奴隷制度に対して異を唱える北部の州では、自由な身分の黒人たちが存在していたのである。この映画の時代背景である1840年時点、合衆国における黒人の人口比率は17%、そのうち13.4%が自由黒人であった。(逆に言うと、黒人の9割近くが奴隷だった)

 この映画は、愛する家族と共に幸福な生を送っていた男が、一夜にして地獄へと突き落とされた衝撃のストーリーである。
 なにが衝撃的と言って、この話が実話であるという点に尽きる。
 これは、1853年に発表されたソロモン・ノーサップによる奴隷体験記『Twelve Years a Slave(12年間の奴隷生活)』をもとに制作された映画なのである。
 ソロモンは、あらゆる権利を剥奪され、他の黒人たちと共に南部ルイジアナ州の農園で酷使される。オーナー家族や支配人への絶対服従、日の出から日没までの過酷な労働、容赦ない暴力と罵倒、不衛生な住居、性的虐待、プラットという名前に変えさせられてオーナーの都合で物品のように左から右へと売られる。それは家畜同然いや家畜以下の生であった。

 アメリカ独立宣言(1776年)?
 全ての人間は平等に造られている?
 生命、自由、幸福の追求の権利?
 関係ない。
 人権はあくまでも「人」の「権利」であって、黒人は「人」ではなくて「物」だったのである。

 キリスト教?
 隣人愛?
 神の前の平等?
 関係ない。
 そもそも奴隷制を肯定する根拠として持ち出されたのはほかならぬ「聖書」であった。
 映画の中でも、最初にソロモンを買ったバプティスト派の聖職者ウィリアム・フォード(=ベネディクト・カンバーバッチ←イギリスBBC製作のテレビドラマ「シャーロック」でホームズを演じて人気沸騰)が奴隷たちを庭に集めて聖書を読み、説教するシーンが出てくる。
 なんたる滑稽! なんたる倒錯!
 
 ソロモンが解放され手記を発表したのは1853年。
 その前年にストー夫人が『アンクル・トムの小屋』を著した。
 南北戦争が始まったのが1861年。
 リンカーンによる奴隷解放宣言が1863年。
 合衆国憲法修正第十三条の成立により公式に奴隷制度を終わったのは1865年。今からちょうど150年前である。
 このような野蛮な文化がほんの150年前まで存在していたのである。
 アメリカには、日本を含む他国の過去の歴史における人権侵害や虐待をとやかくいう権利も資格もまったくないはずである。
 一方で、黒人大統領誕生をわずか150年で実現させてしまう--オバマは奴隷の子孫ではないらしいが――ところは、変化(Change)の許容に対するアメリカ人のすごいところである。30年前、自分は日本で女性総理大臣が誕生するより、アメリカで黒人大統領が誕生するほうが100年は遅いと踏んでいたのだが・・・。

 製作者および出演者として、ブラピが関わっている。




評価:B-


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」       

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!