●日程  10月10日(土)
●天気  くもり
●行程
08:30 JR中央本線・塩山駅 西沢渓谷行バス乗車(山梨交通)
09:05 乾徳山登山口バス停着
09:10 歩行開始
09:40 乾徳山登山口
10:05 銀晶水
10:50 錦晶水
11:10 国師ヶ原
11:30 扇平
12:30 乾徳山頂上
      昼食
13:00 下山開始
14:20 国師ヶ原
16:00 乾徳山登山口バス停着
      歩行終了
16:08 塩山駅行バス乗車
●所要時間 6時間50分(歩行時間5時間40分+休憩時間1時間10分)

 久々の2000m級の山に登る。
 ケントクサン。
 山頂付近は険しい岩場が続き、垂直な巨岩をクサリや梯子を頼りに登るスリリングなシーンが展開するという。大丈夫か。
 三連休の初日なら多少無理しても休み明けに響くことはあるまい。
 大丈夫だろう。
 同じことを思った人が大勢いたのか、塩山駅前の乾徳山行バス発着所は長蛇の列。終点の西山渓谷を目指す人ももちろんいるのだが、装備を見る限り自分と同じ目的地と見た。
 バス2台に分乗する。
 
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 乾徳山登山口はバス停から30分ほど歩いたところにある。
 途中の里山の風景に心和み、乾徳神社に登山の安全を祈る。祭神は大山祗命(おおやまづみのみこと)、その名の通り「山ノ神」である。山頂に奥宮があり、かつては修験道の場として栄えたという。


 
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 登山口から植樹杉の山道となる。
 九十九折の単調な登りを下界の種々の思いにとらわれながら歩きつめると、まず銀晶水がある。冷たい湧き水で顔を洗い、口をゆすぎ、一服する。
 
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 このあたりから周囲は自然林となる。
 ヒノキの香りが鼻腔をくすぐる。「山に来た!」という実感が湧きあがる。
 だんだんと、下界の思考が薄らいでいく。
 錦晶水は水量の多い湧き水が小川をつくっている。すでに汗びっしょりになっていたので、頭から水をかぶる。
 川原にリュックを下ろし休憩する。同じバスに乗ってきたハイカーたちを先に見送る。
 乾徳山はこの時期、見るべき花がない。紅葉にもまだ早い。
 山中唯一目立つのはマムシグサ。トウモロコシのように密集する緑の実が赤く変貌しつつある。
 
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 国師ヶ原から乾徳山山頂を仰ぎ見る。
 あそこまで登るのか!
 山頂の形容が、中世キリスト教の異端カタリ派の聖山だったモンセギュールを思わせる。と言って自分は写真でしか見たことがないのだが。

 
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 背の低い潅木がまばらに生える切り立った岩山。目の眩む断崖。峻厳な山容。天に向けられた指先のような山頂の城壁はまた、真の「存在」に登るための台座とも、光を集めるべき聖なる杯とも、これまでさまざまの形容を受けてきた。(原田武著『異端カタリ派と転生』、人文書院)

モンセギュール


 無人の高原ヒュッテが立つ国師ヶ原から一登りで扇平に着く。
 ススキの波打つ爽快な原っぱである。
 ここから南方に振り向いて、今日はじめて見る富士山が実に麗しい。
 疲れが一気に吹っ飛んだ。
 爽快な秋風に吹かれて一休み。
 もはや頭は空っぽ、ただ景観を楽しんでいる。
 
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 ここからお待ちかね(?)の岩道に入る。
 巨岩、奇岩の合間を縫っていく。
 その名も髭剃り岩では、好奇心旺盛なハイカーたちは、スパッと二つに裂かれた岩の割れ目をメタボ診断のごとく通り抜ける。割れ目の先は、尾てい骨の震えるような絶壁。あと半月もすれば谷底の紅葉が壮麗なことだろう。
 
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 きつい鎖場は二箇所ある。
 特に山頂直前の鎖場が難関。
 20メートルくらいの垂直の巨岩に垂れた鎖を頼りに、足先で岩の割れ目を探しながら、一人ずつ上っていく。自信のない人のために迂回路はあるが、やはりほとんどの人は挑戦していく。
 まあ、難関と言っても、グループで来た人が崖の途中で振り向いてピース写真を撮ってもらうくらいの余裕はあるのだが・・・。
 鎖のない、道の整備されていない時代は、なるほど苦行の場としては最適だったろう。
 鎌倉から室町時代に活躍した臨済宗の禅僧・夢窓国師(夢窓漱石)は、この山に来て修行したと言われている。京都の西芳寺(苔寺)や天竜寺の庭園の設計で知られるお坊様だが、当地(甲州市)に恵林寺(えりんじ)を開基し、その庭園は国の名勝に指定されている。(どうにも国士無双と間違えやすい名前である)
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 山頂到達!
 
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 ごつごつした岩ばかりの狭いスペースに、ハイカーたちが密集している。
 紅葉ピークの頃は、山頂から押し出された人が深い谷底にまっさかさまに転落する様が見られるという。(←ウソ)
 360度の景観はただもう拝するばかりの神々しさ。山名同定などする気も起こらない。
 紫雲のなかに幾重にも連なる尾根を蓮華座のようにして、ひときわ高く天空に浮かぶはもちろん霊峰富士。
 いったいこれほど現実感を欠いた浄土風の山が世界にあるだろうか。
 富士山がなければ、間違いなく関東在住のハイカーは半減、どころか1/10減するだろう。

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 岩陰に平らな場所を見つけて昼食。
 山頂は肌寒い。隣で若い男がすすっているカップラーメンがやけに美味しそう。
 奥宮にお賽銭を上げて慈悲の瞑想をする。
 この数ヶ月で溜まった心の澱がすっかり溶け去り、心身ともに澄みきっていく。
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 下山は、上りとは別のルートでさきほどの鎖場を回避する。
 足場のおぼつかない急斜面をひたすら下って、国師ヶ原で行きの道と合流する。
 ここで野生の鹿と遭遇!
 人馴れしているのか、近づいても逃げない。
 
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 あとは来た道をたんたんと戻る。
 静かな秋の山中を無心に歩いていると、ひと際高く「ケーン」と鳴く声がした。
 
 奥山を もみじ踏みわけ 鳴く鹿の
 声聴くときぞ 秋はかなしき
 (猿丸太夫)