2014年メキシコ映画。

 原題はEl  Incidente
 「出来事」といった意味か。

 1階まで降りると9階の踊り場に、9階まで上がると1階の踊り場に到達する出口のない階段。一本道をずっと運転し続けると、いつの間にか通り過ぎたはずの道に舞い戻ってしまう道路。山手線のように同じ軌道をグルグル走り続け降車できない列車。漕げども漕げども陸地も他の船も見えない大海原を漂う筏。
 無限に繰り返される出口のない空間に、30年以上、訳も分からず閉じ込められた数名の男女のパニックと恐怖と苛立ちと絶望と墜落と諦めとを描くシチュエーションスリラー。
 「世界各地の映画祭で注目を集めた」というDVDパッケージの煽り文句に乗せられてレンタルした。
 
 趣向は面白い。
 しかし、意味が分からん。
 結局なんだったのか、最後まで明かされることがない。
 永遠にループするシステム自体は判読できる。一つのループシステムが別のループシステムに、登場人物の一人を介してつながってゆくという仕組みは分かった。だが、いったい誰がどういった意図で、このようなパラドクスをある特定の人物に仕掛けたのかが説明されないで終わってしまう。
 その点で、パラドクス(逆説)というより不条理である。喜劇にしろ悲劇にしろ、幸福にしろ不幸にしろ、すっきりした結末がない。

 深読みするならば、元になっているのはギリシア神話に出てくる『シーシュポスの岩』だろう。
 
 シーシュポスは神々を二度までも欺いた罰として、タルタロスで巨大な岩を山頂まで上げるよう命じられた(この岩はゼウスが姿を変えたときのものと同じ大きさといわれる)。
 シーシュポスがあと少しで山頂に届くというところまで岩を押し上げると、岩はその重みで底まで転がり落ちてしまい、この苦行が永遠に繰り返される。(ウィキペディア「シーシュポス」より)
 
 『異邦人』で有名な久保田早紀、じゃなかったアルベール・カミュ(1913-1960、←タレントのセイン・カミュの大叔父にあたる大作家)が、このエピソードをもとに『シーシュポスの神話』というエッセイを書いている。ソルティ未読だが、「いずれは死んですべて水泡に帰すことを承知しているにもかかわらず、それでも生き続ける人間の姿を、そして人類全体の運命を描き出した。」(ウィキペディア『シーシュポスの神話』より)。
 イサーク・エスパン監督がここまで哲学的なところを踏まえて、この映画を撮ったのかどうか知らないが、確かに人生の比喩として観ると‘面白い’・・・て、言っていいのやら。どころか、仏教徒のソルティが観ると、もっと深く、もっと残酷に、これは輪廻転生の比喩のようにも思える。
 
 この世に生まれると同時に前世の記憶をすっかり抜き取られ、一からやり直し。理由も目的も分からず、ゴールも分からず、出口も分からず、ただ欲望を満たすために闇雲に闘うだけ。得られたものはすべて奪い去られ、老いて病んで苦しみのうちに死んでいく。それが何万回、何億回と繰り返される。
 これがブッダの説いた輪廻転生の実体である。

 そのあたりと絡ませると、この映画はかなり深遠な興味深いものになっただろう。
 でも、エスパン監督は仏教を知らんだろうな。

 いずれにせよ、怖ろしいシステムだ。
ハムスター車

評価:C+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!