2013年イギリス、アメリカ。

 「もう一度あの時に時間を戻して、人生をやり直せたら・・・」
 という妄想は誰でも一度は描くであろう。
 この映画は、その妄想を現実化してしまった青年の話である。
 
 主人公ティム(=ドーナル・グリーソン)は21歳の誕生日に父親から重大な秘密を打ち明けられる。
「我々一族の男にはタイムトラベルできる力がある。過去に自分が存在した場所に戻って、別の選択肢を選ぶことができる」
 善良で家族思い・友人思いのティムは、その力を悪用することなく、自分の恋愛の成就のため、そして周囲の愛する人々のために使う。
・・・・・というハートウォーミングなSFヒューマンコメディである。
 
 監督のリチャード・カーティスは、ローワン・アトキンソン主演の『Mr.ビーン』や、人気ハリウッド女優(ジュリア・ロバーツ)としがない書店店員(ヒュー・グラント)の身分(?)違いの恋愛を描いた『ノッティングヒルの恋人』、レネー・ゼルウィガー主演の『ブリジッド・ジョーンズの日記』など、コメディ映画の脚本家としてむしろ有名である。脚本兼監督をつとめたこの『アバウト・タイム』も、上記の作品同様、イギリス風のとぼけたユーモアと不器用に生きる市井の人々へのあたたかい眼差しをもって、何の変哲もない日常生活の中にひそむ「生」の魅力を描くことに成功している。
 
 役者の中では、ティムの父親を演じたビル・ナイが俄然光っている。どこかで観た顔なのだが、何の映画の何の役だったのか思い出せず・・・。
 ウィキで調べたら、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のデイヴィ・ジョーンズ役をはじめ、『ハリー・ポッターと死の秘宝PART1』、『銀河ヒッチハイクガイド』、『ショーン・オブ・デッド』、『オペラ座の怪人』ほか、たくさんのヒット作・話題作に出演している名バイプレイヤーなのである。
 名前を覚えておこう。(無理)
 
 実際には、ティム青年が持っているような過去に戻る超能力を与えられたら、その人は間違いなく不幸になるだろう。失敗しても何度でもやり直しが効くので、目の前の一つのことに心をこめて打ち込むことができなくなってしまうだろうし、自分の人生を完璧にしたいという執念が異常なまでに高まって、ちょっとでも気に入らないことがあると、簡単にタイムトラベルを繰り返すようになる。しまいには、整形手術にはまった芸能人みたいにコントロールとバランス感覚を失って、グロテスクな結末を迎える羽目になろう。

 「もう一度あの時に時間を戻して、人生をやり直せたら・・・」と願うのは、その人が「今の自分」を受け入れられないところから来る。
 たとえ、タイムトラベルをして状況が思い通りに変わったとしても、「今の自分を受け入れられない」という性格自体が変わらなければ、結局、 堂々巡りになるだけだろう。主体がマイナス(-)であるとき、いくらプラス(+)を掛けても、出てくる答えはマイナス(-)にしかならない。
 「今の自分」「その時々の自分」を受け入れられることこそ、幸福でいるための最大の秘訣である。
 きっと、その秘訣をものにした人の顔は、穏やかに輝いていて、見る人をも幸せな気持ちにさせ、いくら歳を重ねようが整形手術の必要などないに違いない。
 笠智衆のように。



評価:C+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!