2013年日本映画。

 熊本地震の余震が続く中、九州にある原発のうち現在唯一稼働中の鹿児島県川内原発のことが気にかかる。震源が広がっていて、川内原発から80キロのところでも震度5を記録している。
 そもそもこれは本当に「余震」なのだろうか?
 「予震」でないことを祈るばかりだ。

 そんななか、東日本大震災による福島原発事故の住民への被害を描いたドキュメンタリーの上映が国分寺であった。
 監督したのは、イアン・トーマス・アッシュという1975年ニューヨーク生まれ日本在住のドキュメンタリー作家。福島原発事故の11日後に福島の取材を決意、主に伊達市を訪れて高い線量の放射線に曝された地域を取材し、不安と怒りとやるせなさに震える住民の声を採録している。
 特にアッシュ監督が懸念し問題視しているのは、子供たちの被爆である。
 
 タイトルのA2-B-C。これは、甲状腺に発生したのう胞や結節(しこり)の大きさによる判定レベルを示している。原子炉で事故が起きると、放射性物質の1つである「放射性ヨウ素」が大気中に放出される。これが体内に取り込まれ甲状腺に蓄積されると、甲状腺がんを引き起こす可能性が高くなる。新陳代謝が活発な子どもほど放射線の影響を受けやすい。
  • A1: 超音波検査によって、のう胞、結節ともに、その存在が認められなかった状態。
  • A2: 超音波検査によって、大きさが20mm以下ののう胞、または5mm以下の結節が認められた状態。要経過観察。
  • B: 超音波検査によって、大きさが20.1mm以上ののう胞、または5.1mm以上の結節が認められた状態。二次検査が必要。
  • C: 複数の医師による検討の結果、すみやかに二次検査を実施した方がよいとの判断をした状態。

 A1判定以外は、甲状腺に何らかの異常が見つかったという意味である。映画の中にはA2判定を受けた子供たちとその親たちが登場し、予測できない将来について不安な表情を隠せない。
 2011年10月から2013年11月までに福島県が実施した検査結果によれば、震災当時18歳以下の子供254,280人のうち、
 A1判定 134,805人(53%)
 A2判定 117,679人(46.3%)
 B判定 1,795人(0.7%)
 C判定 1人
となっている。(週刊「通販生活」ホームページ記事参照) 
 約2人に1人の子供に異常が見られるとは・・・・・。過剰診断を指摘する専門家の声もあるのだが、ならば福島原発事故の影響をほぼ受けなかった地域(たとえば北海道とか)の同年代の子供たちにも同じ検査をして、比較対照(コントロール)すればよい話である。しかし、当の過剰診断を訴える専門家も行政もいっこうにこれをやろうとしない。
 もっとショッキングな結果が出ている。
 福島原発事故をきっかけに「福島の子どもたちの命と健康を守ろう」と呼びかけられた基金によって建設され、今も福島駅近くで診断・治療を行っているふくしま共同診療所の昨年11月30日発表によると、
 
これまでに153人の小児甲状腺がんないし疑いが見つかり、そのうち114人を手術し113人ががんと確定しました。小児甲状腺がんの発症は100万人に3人と言われていますが、福島では約3,000人に1人の確率で発生しています。しかし国・県・福島医大・県医師会は、「甲状腺がんの多発は放射能によるものではない」と主張し続けています。(福島診療所建設委員会2015年12月15日発行『SunRise』NO,9より抜粋)
 
 全国平均の100倍強である!
 これはどう見たって過剰診断のレベルではない。ごまかしようがない。
 福島県医師会主催の開業医向けの研修会で、講師は「福島の小児甲状腺がんは放射能の影響ではなく、自然発生だ。放射能恐怖のためにスポーツをしなくなり肥満が増えた。それによる健康被害の方が心配だ」と述べたと言う。
 臆面も無いとはこういう手合いを言う。
 
 この映画を観て、どうしても連想せざるをえないのは、ソルティも裁判支援に関わった90年代の薬害エイズ事件である。国(当時厚生省)と企業(製薬会社)と医師(安部英を長とする血友病専門医)の癒着のトライアングルが手元にある明白な事実を隠蔽し、安全を吹聴し、HIV汚染された非加熱血液製剤を血友病患者に投与し続けた。結果、約1500人の血友病患者がHIVに感染し(そのなかには現在国会議員である川田龍平が含まれる)、約500人がエイズ発症し亡くなった。亡くなった子供たちの多くは、母親自らがHIV入り血液製剤を注射器で投与していたのである。
 
 国はまたしても同じ過ちを繰り返そうとしている。
 一部の医師はまたしても患者を見殺しにしようとしている。
 さらに酷いことに、メディアの大勢は真相を追究する力も倫理も見識も失っている。(この福島の子供たちの現状を今年3月11日に報道したテレビ朝日の「報道ステーション」は『週刊新潮』から激しいバッシングを受けた)
 
 隠蔽したがる理由は言うまでもなかろう。
 生身の子供よりもアトムのほうが可愛いのだ。


評価:A2BC

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!