1957年発表。
1995年創元社推文庫より発行。

 『狙った獣』の次にミラーが発表したミステリー。
 前作同様、心の檻に閉じ込められて突破口の見出せない登場人物たちのエグいまでに情け容赦ない心理描写と、詩的な味わいのある文章の巧さが目立つ。読ませる。
 が、なにせ40年前の作品のこと。トリック自体は1/3ほど読んだところで分かってしまった。どころか、結末のシーンまで頭の中で描けてしまった。で、まったくそのとおりのラストシーンだった。
 下手にミステリーに精通してしまうのもつまらないものである。
 ま、読みながら、「あっ、ここに伏線が張ってある」「ここはうまく読者に嘘をつかないように配慮しつつ、さらりと書き流してあるな」とか、作者の苦心の跡をたどる楽しみはあるのだが・・・。
 
 ミラーは「女」はもちろんだが、「男」を描くのがうまいな。
 「女」を書ける男性作家が少ないように、「男」を書ける女性作家も少ない。
 おそらく同じ推理小説家である夫、ロス・マクドナルドをよく観察していたのだろう。ハードボイルドの裏に潜む男の弱さと言うものを。
 慧眼と言うべきか。
 しょせん男は女には適わん。