2006年東映。

 楽園(がくえん)と読む。音楽の「楽」なのだ。第一次世界大戦中、ベートーヴェン第九交響曲の日本初演(1918年6月1日)が行われた徳島県板東町(現・鳴門市)の板東俘虜収容所が舞台である。
 この島で捕虜として収容された総督(=ブルーノ・ガンツ)を長とするドイツ兵たちの2年ほどにわたる生活と、人道的待遇で俘虜たちに敬愛された収容所長の松江豊寿(=松平健)を描いている。
 第九演奏は、ドイツが正式に降伏し、捕虜たちが夢見た祖国への帰郷が決まり、収容所閉鎖が目前に迫った最後の演奏会として開催された。俘虜たちと仲良くなった島民を集めての演奏会の模様と第九の響きが映画のクライマックスを形作る。
 
 正直、第九に対する興味がなかったら、この映画を最後まで観ることは不可能だったろう。しょっぱなの青島での戦闘シーンのセットのあまりの薄っぺらさ、演出の拙劣ぶりにゲンナリし、見続けるのがつらかった。DVDの停止ボタンに指が伸びては、「まあ、第九初演の背景を知るだけでもいいか」と考え直して、忍耐しつつ見続けた。
 日本映画がこれほどの最底辺をなめたこともなかろう。映画館で見ていたら、スクリーンに向かって「金返せ」と叫びたくなるレベルである。
 これと比較すべき映画として、マイク・ミズノ監督『シベリア超特急』シリーズ、いわゆる「シベ超」がある。どちらも戦時中の実在の偉人――「シベ超」では日本陸軍大将・山下奉文→むろん演じるは水野晴郎――が主役であり、どちらも軍服姿の男が右往左往し、どちらもロケセットのハリボテっぽさが全編横溢している。そして、水野晴郎演じる山下泰文と、松平健演じる松江豊寿の似ていることよ。いろんな意味で似ている。
 しかし、「シベ超」はそのハリボテ加減が衝撃的で、ギャクの域にまで達していた。完璧なるB級(C級?)映画であり、逆に‘突っ込みどころ満載’という快楽を観る者に提供してくれる。これはこれで良い。その証拠に「シベ超」にはマニアックなファンが今もついている。
 『バルトの楽園』が許せないのは、ヒューマンドラマを描いたA級映画といった、もっともらしい顔をしているからである。そこに世界の名優ブルーノ・ガンツ出演で箔をつけようとし、クライマックスに第九を持って来るのだから始末が悪い。軍隊と音楽というからみで、おそらくは市川崑監督の『ビルマの竪琴』(1956年、1985年)を意識したシーンがある。ソルティは映画作家としての市川崑はあまり高く評価していないが、それでもなお、市川崑作品とこの映画を同じ日本映画として語ってしまうことに多大な抵抗を感じざるを得ない。
 観客もなめられたものである。
 日本映画もなめられたものである。
 
 唯一の救いどころは、松平健のはまりぶり。「暴れん坊将軍」でも「マツケンサンバ」でも「王様と私」でも「NHK大河ドラマ」でもなく、この映画の松江豊寿ほど、松平健が気持ちよさそうに自然体で演じているのは観たことがない。「やっと、やりたい役にめぐり合った」と言っているかのようなご満悦ぶり。そこが『シベ超」の水野晴郎と重なるのかもしれない。
 バルト(髭)がよほど気に入ったのだろうか。



評価:D+

 
A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!