●日時 2016年12月7日(水)
●天候 曇り時々晴れ
●行程
7:30 JR内房線・浜金谷駅
    歩行開始(車力道コース)
8:40 地球が丸く見える展望台
9:00 鋸山頂上
10:00 日本寺境内(北口管理所) 
     百尺観音
     地獄のぞき
     千五百羅漢道
11:00 大仏広場
11:40 表参道管理所
12:15 JR内房線・保田駅
    歩行終了
●所要時間 4時間45分(歩行時間4時間+休憩時間45分)
 
 自宅から浜金谷駅まで3時間ほどかかる。早朝登山したかったので、千葉駅近くのホテルに前泊した。
 朝まだき暗いうちに始発列車に乗る。ほとんど各駅ごとに上り列車との待ち合わせがある。その間、列車のドアの一部が開けっ放しで寒いことこのうえない。房総だからと舐めてかかっていた。
 
 浜金谷で降りたのは自分を含む3名。
 ホームからはこれから登る鋸山の長テーブルのような奇抜な形と、テーブルクロスの裾が幾重にもドレープを作っているようなギザギザした岩肌が迫って見える。なるほど「鋸」と言われるのも道理。
 
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 ひっそりした町を抜けて登山口に立つ。
 上りに選んだ車力道は、その昔ここを「車力(しゃりき)」と呼ばれる女性達が使用したことによる。
 鋸山は古くから房州石の産地として知られる。頂上付近で切り出された石を車力たちがネコ車に積み、山を下って金谷港まで運んで船に積む。房州石は建築用材、護岸工事用材などに使われたのである。町中を歩くと、ここが石の町であることを如実に物語る立派な石塀の家がそこかしこに見られる。
 車力達は、港で80キロの石をおろすと、今度はネコ車を背負って山を登る。これを一日3往復したと言う。老人ホームで80キロの利用者の移乗介護でヒイヒイ言っている自分。頭が下がる。

 
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 山道自体は足元が良く、道跡も階段もしっかりついており、さほど急ではない。そもそもが石の山なので、石段をつけやすいのだ。一息で尾根まで達した。
 
 「地球が丸く見える展望台」という名前は「ちょっと大袈裟だなあ」と思っていたのだが、実際立ってみると、左手の山の稜線から始まって、館山に向かう美しい海岸線、大島の浮かぶ太平洋、伊豆の山々、三浦半島、東京湾浦賀水道、煙突の並ぶ対岸の京浜工業地帯、内房の森を越えて右手に広がる関東平野――300度近い大パノラマが弧をなして広がり、ガリレイ・ガリレオよろしく「地球は丸かった」と思わず呟きたくなる。あいにく富士山は雲の陰に隠れていたが、名前負けしてない圧倒的絶景である。300m台の低山でこれほどの展望が得られる山は、滅多にあるまい。
 この景色を見るだけでも来た甲斐があった。 

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 アップダウンを繰り返し、鋸山の山頂に着く。
 誰もいない。
 先ほどの展望台ほどの絶景ではないが、ここからは関東平野方向がよく見える。山裾から広がる、ところどころ紅く染まった常緑樹のじゅうたんは、房総半島がいかに自然豊かであるか、そして温暖な気候であるかを物語っている。

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 来た道を戻って、日本寺へ向かう。
 そそり立つ石壁のところどころに長方形の穴が空いている。切り口はナイフの刃のように鋭く、辺と面は幾何学的に真っ直ぐ。ずいぶんな量の石が切り出されたと見える。
 空洞になった岩壁の中に立って、オペラのアリアを歌うと響きが素晴らしかった。どうせなら、ここに野外劇場を造ったらどうだろう?

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 日本寺入口に向かう山道から、有名な‘地獄のぞき’の切り立った岩壁が見える。飛び出した突端の形はまるで獅子の頭。確かに獅子の鼻の頭に立って下をのぞいてみたい誘惑にかられる。

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 鋸山は初めてのはずなのに、どういうわけか、さっきから風景に見覚えがある。
 写真で見た? テレビで見た? 前世で来た? デジャ・ビュー?
 いや、今生で来たような気がする。
 その思いは日本寺が近づくに連れてますます強くなり、石切り跡に刻まれた百尺(30メートル)観音を目にしたとき、確信に変わった。
 「ここ、絶対に来た」
 学校の遠足や修学旅行で千葉に来た覚えは無いから、小さい頃の家族旅行に違いない。
 こんなところに子供を連れてくる親もなかなか酔狂である。自分の仏教的なものへの愛着は意外に幼い頃から育まれたのかもしれない。(後日親に確認したら、やはり「連れてった」とのこと。マザー牧場に行く途中に寄ったらしい)

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戦没者供養および交通犠牲者供養のために1966年に造られた
 

 急な石段を登って、いよいよ地獄のぞき。
 空も晴れて、大気も暖かくなってきた。
 
 地獄のぞきの周囲にはしっかりした柵があるので、恐いことはない。が、高所恐怖症の人はここに立つのは厳しいだろう。お尻がむずがゆくなるほどのスリルという点で言えば、山梨県甲府の羅漢寺山(弥三郎岳)の柵も鎖もない剥き出しの頂上のほうに軍配が上がる。
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わかりにくいが、真下を覗いた

 光景は圧巻。
 
 神ってる・・・。

 いったい、この絶景を覚えていないなんてことがあるだろうか?
 子供の頃は怖くてここに立てなかったのか?
 とんびが気持ちよさそうに、空と海の間を滑空していた。
 
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 日本寺は今から約千三百年前、聖武天皇の勅詔と、光明皇后のおことばをうけて、神亀二年六月八日(西暦725年)高僧行基菩薩によって開かれた関東最古の勅願所です。正しくは乾坤山日本寺(けんこんさんにほんじ)と称し・・・・・。
 初めは法相宗に属し、次いで天台、真言宗を経て徳川三代将軍家光公治世の時、曹洞禅宗となって今日に及んでいます。(日本寺パンフレットより抜粋)
日本寺マップ 002


 なんと開基はあの行基様である。
 王朝期の聖(ひじり)について調べていたソルティ。
 やっぱり今回も‘呼ばれた’としか思えん・・・。 
 険しく切り立った、人を寄せ付けない岩場は修行するのにうってつけだったであろう。

 この寺は、様々な憂き目に遭っている。
 昭和14年11月、登山者の失火によって国宝仏像と堂宇をすべて失ってしまった。第二次世界大戦では、太平洋を見渡せて、港も近く、強固な自然の砦であるこの山は軍部の要塞として使われた。おそらく、廃仏毀釈の波をもろかぶったためであろう。山中の羅漢像の多くは今も首が刎ねられたままだ。
 現在山中では復興工事が進んでいる。素晴らしい眺望と自然と気候と海の幸に恵まれたロケーション。そして、無残な破壊の爪あとが残っているとはいえ、一見に値する仏像たちが数多くある。
 ここは関東有数の名所といっても過言ではない。
 

●仏像さま

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あせかき不動(なんとも渋い顔をしている)

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カッコイイ宝篋印塔(ほうきょういんとう) 

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羅漢さま(職場にいる認知症高齢者を思わせる)
 
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阿修羅? 十一面観音?
 
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奥の院無漏窟のお釈迦様と弟子たち(実に静かなたたずまい)
 
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聖徳太子
 
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日本一高い大仏様(31メートルは東大寺大仏の1.7倍)
 
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正しくは「薬師瑠璃光如来」と称します
 
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どの角度から見てもイケメン

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復元工事により1969年に再現された (原型は1783年大野甚五郎英令による)
 
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背後の木はブッダガヤから分けられた菩提樹(沙羅双樹)

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お願い地蔵尊の足元に置かれたおびだたしい数の願かけ地蔵
 
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なんとここでダキニ天に出会うとは・・・
 
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ご神体は白狐であろうか


●紅葉づくし

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 山を下りてから保田駅までは、のどかな里山風景が広がっている。すでに師走であるが、晩秋の風情が漂う。植生も南国風。さすが房総。

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 浜金谷駅に戻って、駅そばの「味はな」という店で今日最初の食事を取る。「海鮮女かけ丼」というのを注文した。ご飯の上にたっぷりの芽かぶとズケが乗っている。磯の香りが鼻腔を覆い、身内に原始的感覚が呼び覚まされる。高級レストランの凝ったディナーより、よっぽど贅沢だ。ここは海藻とろろを使ったラーメンがイチオシらしい。
 

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 浜金谷一の老舗(創業安政元年)「かぢや旅館」で日帰り入浴する。
 浴場はいったん建物から外に出て、渡り廊下の突き当たりにあった。このアプローチがなかなか瀟洒で良い。

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 温泉(鉱泉)はぬるめで長く浸かっていられる。パワーあふれるというよりも、ゆったりとくつろいで疲れを癒してくれる泉質である。かつて、車力の女性たちは一日の重労働を終えて、この湯に浸かって凝りをほぐしたのであろうか。
 浴後は、渡り廊下に並んだ椅子に座って、いい感じにほったらかしてある宿の庭を眺める。
 はあ、癒される。 
 つくづく、ソルティは「昭和」に住んでいるなあ。

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 帰りは浜金谷から出る東京湾フェリーで、対岸の久里浜に渡った。
 
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 山と海、美食と温泉、陽光と紅葉、信仰と郷愁。
 房総の魅力をすっかり堪能した旅であった。


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