神野寺&鵜原理想郷 042


日時 2017年4月3日(日)
天気 曇り時々晴れ
行程 JR内房線下り
 7:57 千葉駅発 
 8:36 木更津駅着(乗り換え)
 9:47 佐貫町駅着
 9:56 佐貫町駅発(天羽日東バス)
10:24 神野寺
    九十九谷展望台
12:40 神野寺発(天羽日東バス)
13:08 佐貫町駅着
13:48 佐貫町駅発
14:29 館山駅着(乗り換え)
15:48 安房鴨川駅着

 18切符で初春の房総を行く。
 
 今回の目的は聖徳太子が598年に創建したという神野寺
 日本で4番目、関東では1番古い寺だそうである。(日本最古は蘇我馬子が建立した飛鳥寺)
 そりゃ、そうだ。聖徳太子以前にわが国に寺は存在しなかった。
 創建時の建物が残っているわけはなく、現在の本堂は元和7年(1621)の焼失後、宝永5年(1708)に再建されたものである。美術的にどうこう、建築史的にどうこう、言うほどのものではない(と思う)。本尊は、薬師如来と軍荼利明王(共に高さ3.6メートル)で12年に一度寅年に1ヶ月間のみ開扉する秘仏である。
 なので、今行ってもさして見るべきものはない。
 が、昨年末の鋸山詣での際に近くにあるこの寺の存在を知ったとたん、どういうわけか「行かなくちゃ!」という気になった。房総と言えばなんと言っても日蓮上人であるが(千葉県内に577の日蓮宗寺院がある)、日蓮ゆかりの誕生寺や出家した清澄寺ではなく、聖徳太子ゆかりの真言宗(空海)のお寺に惹かれるあたり、ソルティの持っている縁なのかもしれない。
 つまり、「呼ばれている!」感があった。
 
 内房線普通列車は(外房線も)本数が少ない上に列車の連絡が必ずしもスムーズでないので、乗換駅で待ち時間が結構ある。先を急ぐ人はイライラするだろうが、乗り降り自由の18切符でのんびり旅を楽しむ者にとっては、待ち時間で下車駅周辺を散策することができるので都合がよい。木更津では40分、館山では37分の散策タイムがとれた。
 やはり、どうしても海に足が向かう。キャバクラの並ぶ通りの突端に船舶が巨躯を並べる木更津港の野郎っぽさ、江ノ島をはるかに見やる穏やかな館山の浜辺の女性らしさ。対照的な景観が面白かった。木更津には「狸ばやし」で有名な証城寺があるのだが、駅から歩いて行ける距離にあるとは知らず、見逃した(←伏線)。
 

神野寺&鵜原理想郷 006
木更津港
 

神野寺&鵜原理想郷 007
木更津駅前広場
 

神野寺&鵜原理想郷 041
館山の浜辺から江ノ島を望む

 
 神野寺が目的と書いたけれど、本当のところ、一番の目的は「ただ列車に乗ること」である。
 普通、移動時間は目的となる観光地へ着くための手段に過ぎないものだが、ソルティの場合、移動こそが目的で観光地はそのための手段というか‘口実’である。経過こそが目的、人生もしかり。ってカッコイイように聞こえるが、単なる‘乗り鉄’に過ぎない。
 ブルーのクロスシートの窓際に腰掛け、靴を脱いだ両足を前の席に伸ばし、時間を気にせず、窓外に流れる風景を――春のやわらかな陽射しに包まれる野山や畑、昭和のまんまの町並みや家々、線路沿いにどこまでもついて来る黄色い菜の花の帯、長年連れ添った老夫婦のような空と海との長閑なランデブーを、見るともなしに眺め、退屈しのぎに本を読みブログを書き、ノンアルコールビールとポテトチップスで腹ごなしをし、眠くなったら眠る。そのうち列車と自分とが一体になってくる。
 これ以上の贅沢、これにまさる至福があるだろうか。
 
 佐貫町駅からのバスはマザー牧場を経由する。子連れはみなマザー牧場で降り、終点まで行ったのは自分ひとりであった。神野寺、あまり人気ないようである。というより、列車と地域バスを使って行く人が少ないのだろう。
 

神野寺&鵜原理想郷 008
佐貫町駅
 

 新緑や百花繚乱の季節まで間があるのは考慮に入れるとしても、神野寺の殺風景はちょっと驚きである。
 建物も庭の手入れも行き届いていない。見るからにお金に困っていそう。江戸時代徳川家の氏寺として庇護され、檀家を持たずともノウノウやって来られたツケが回ってきているのだろうか。
 そしてまた、歴代の住職が散財したらしく、趣味の悪い骨董の類いが宝物殿や道場(有料)にわんさか並んでいる。中国式土偶とか恐竜の卵とか何十とある鉱石コレクションとか、果ては虎の皮や動物の骨や剥製まである。仏教と関係ないものばかり。宝物殿というより博物館か温泉街の秘宝館に近い・・・・。
 だが、面白い(なんのこっちゃ)。

神野寺&鵜原理想郷 011
本堂
 

神野寺&鵜原理想郷 022


 本堂の裏側にある美しい聖徳太子像、江戸時代の名工・左甚五郎作の白蛇(軍荼利明王の化身)、両本尊の7分の1の像、たおやかな立ち姿が麗しい明星観音など見るべきものもあるにはあるので、文字通り(笑)玉石混交といったところか。
 本堂の裏手の奥の院あたりはなかなか良い‘気’に満ちていた。が、全体的に関東一の古刹の名が泣くような俗物臭と疲弊感があった。
 いったい何に呼ばれたのか?
 
神野寺&鵜原理想郷 012
聖徳太子像・・・うつくしい!
 

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左甚五郎作の白蛇
 

神野寺&鵜原理想郷 018
本尊・薬師如来像の1/7模型
 

神野寺&鵜原理想郷 019
本尊・軍荼利明王
像の1/7模型
 

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明星観音
 

神野寺&鵜原理想郷 015

  
 お寺からミツマタの芳香漂う車道を15分ほど歩いたところに九十九谷展望台がある。
 「つくもだに」ではなく「くじゅうくたに」と読む。
 

神野寺&鵜原理想郷 026
ミツマタ (じんちょうげ科、樹皮は和紙の原料となる)


 掛け値なしの絶景。
 180度の視野いっぱいに谷と連山が広がって気宇壮大である。早朝には谷間を雲海が覆う幻想的な光景が望めるらしい。この風景に魅せられた東山魁夷はここで『残照』という作品を描き、世に出るきっかけとなった。


神野寺&鵜原理想郷 031


神野寺&鵜原理想郷 032


 神野寺へと戻る途中、小動物が道路を横切った。犬でも猫でもない。
 狸であった。
 これまで百以上の山に登っているけれど、野生の狸を見たのははじめてかもしれない。近づけるぎりぎりまで近づいてパチリ。
 可哀相にどこか怪我しているようであった。
 証城寺で唄われる人と狸の平穏な暮らしはもう過去の話なのだ。
 

神野寺&鵜原理想郷 038


 佐貫町駅まで戻って下り列車に乗る。
 館山から安房鴨川駅までは心地よい惰眠をむさぼる。


後編につづく。