1964年アメリカ映画

 原題は Lady in a Cage 
 「籠の中の鳥」ならぬ「籠の中の女性」。そして籠とは自宅のエレベータのことである。
 腰の悪いヒルヤード夫人が豪邸に取り付けた檻のごときエレベータ。それが突如起きた事故のため、上昇中に停電してしまう。広い居間の真ん中で宙づりになったヒルヤード夫人。飛び降りることも這い上がることもできない。エレベータ内に設置した非常ベルを押すが、外を通る誰もが無関心。外出中の一人息子に電話をかけようにも受話器ははるか下のテーブルの上。(むろん携帯電話なんかない時代の話である) クーラーの停まった蒸し暑い屋内で時間ばかりが悪戯に過ぎていく。そして・・・・
 
 このシチュエーションを考え出した人がすごい。
 勝手知ったる我が家のど真ん中で閉じ込められ、身動き取れず、周囲で起こることを目撃するほかないという、あまりに理不尽な、あまりにおマヌケな、あまりに悪夢な設定が独創的である。監督のウォルター・グローマンは刑事コロンボなど主としてテレビドラマを撮っていた人らしい。映画はこの『不意打ち』のみが知られている。映画評論家の町山智浩が若き日に観てトラウマになった作品の一つに挙げているが、まったく同感である。深層心理に食い込むような不気味さと、神の「か」の字も感じさせない性悪説の救いのなさ、それでいて冒頭のクレジットで示されるようなスタイリッシュでセンス抜群の映像。ミヒャエル・ハネケ『ファニー・ゲーム』(1997)、ロバート・アルドリッチ『何がジェーンに起ったか?』(1962)、チャールズ・ロートン『狩人の夜』(1955)に連なるドメスティック・フィルム・ノワールの傑作と言えよう。
 
 この作品を単なるB級映画に終わらせていないのは、何と言っても主役のヒルヤード夫人を演じるオリヴィア・デ・ハヴィランドである。
 オリヴィア・デ・ハヴィランドは、オスカーを2回も手にしているアメリカを代表する名女優であるが、もっともよく知られている役は言うまでもない。『風と共に去りぬ』のメラニー・ハミルトンである。ヴィヴィアン・リーとクラーク・ゲーブルがそれぞれスカーレット・オハラとレッド・バトラーのはまり役であったのとまったく同程度に、オリヴィア・デ・ハヴィランドはメラニー・ハミルトンのはまり役であった。あたかも3人して原作から抜け出てきたような感がある。
 メラニーはおそらくアメリカ男性が求める理想の妻にして理想の母親像であろう。優しくて聞き上手、穏やかで控えめ、忍耐強く、芯がしっかりしていて、敬虔なクリスチャン。マーガレット・ミッチェルによって創造されたこの理想の女性を、ハヴィランドは見事に演じきり、永遠にフィルムに焼き付けた。ウィキペディアを読むと実際のハヴィランドはまったくメラニーとは性格が違ったようなので、やはり演技力の賜物だろう。
 この『不意打ち』でもエレベータ事故に最初は冷静に対処していた夫人が、次々と襲い来る‛不意打ち‘の連続に次第に我を失い、パニックに陥り、恐怖におびえ、狂気に陥っていく様を、徹底的なリアリズム演技で見せている。そのうえ、単純に事件に巻き込まれた可哀想な被害者という観る者の共感や同情を得るだけの役に終わらせていない。三十にもなった一人息子を「籠の中の鳥」のように利己的な愛情で支配する独善的な母親像を打ち出している。このハヴィランドはまったくのところメラニーの「め」の字も感じさせない。
 彼女の演技を見るだけでも価値ある作品である。
 
 身動きの取れないヒルヤード夫人をもて遊び、虐め、痛めつける強盗役に若き日のジェームズ・カーンが出ている。スタイルのいいドイツ系の美青年で目を惹くカッコよさ。
 この配役が面白いなと思うのは、後年今度はカーン自身がベッド上で「身動きの取れない」負傷した中年作家として、看護人である熱狂的な愛読者に痛めつけられる役をやっているからである。スティーヴン・キング原作の『ミザリー』(1990)である。
 因果はめぐる。



評価:B+


A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!