このたびの遍路を振り返った時、やはり自然災害について語らなければ、片手落ちだろう。
 昨年9月30日、大型で強い勢力の台風24号(名称チャーミー)が日本を縦断した。各地で倒木や道路の冠水、住宅の浸水、停電などの被害があったのを覚えている人も多いだろう。
 
 歩き始めて四日目であった。
 焼山寺の手前の鴨島のビジネスホテルに滞在していたソルティは、午前中に近くの店に食料買い出しに行って、あとは終日、窓の外を窺いながら部屋に籠っていた。司馬遼太郎の『空海の風景』上巻と五十嵐大介の漫画『海獣の子供』を読み終えた。後者はホテルの本棚で見つけ、絵の感じが気に入ったので借りてみた。不思議な双子の少年を主人公とする海洋ミステリーなのだが、面白いことに、この双子の名前が「空」と「海」だった。

 翌日、歩きを再開した。台風の被害はあちこちに見られた。特に、徳島の山道と高知の海岸沿いで目を覆うものがあった。


豪雨被害鶴林寺
20番鶴林寺の山道(徳島県勝浦町)
地元のボランティアさんが翌日にも倒木を切って、通れるようにしてくれた


浜千鳥公園ガードレール
童謡で有名な“浜千鳥”公園(高知県安芸市)
鉄のガードレールが波でひしゃげてしまっている


弘法大師霊跡(奈半利)
海岸の弘法大師霊跡(高知県奈半利市)
波にさらわれて完全に崩壊


 都会の内陸の、どちらかと言えば高台にしか住んだことのないソルティは、台風の本当の恐ろしさを知らないで育ったのだとつくづく思った。子供の頃の台風体験は、停電に備えてロウソクの準備をしたり、非常食のおにぎりを作ったり、どちらかと言えば楽しい行事感覚であった。被害現場をテレビや新聞を通して見るのと、こうして直接目の前で見るのとではインパクトが違う。


横峰寺への道3
60番横峯寺への山道(香川県西条市)
手つかずの状態


 しかるに、愛媛県に入ったところで、「台風被害なんて序の口」と思わせるような、より深甚なる被害あるを知った。
 7月7日の西日本豪雨災害である。
 もうあれから4か月近く経っているのに、南予地方(愛媛県南部)では復旧の目途が立っていないところが多々見受けられた。やはり当時、川の氾濫による各地の浸水被害や避難所に集まる人々の様子をテレビやネットで視聴していたが、実際の現場に来て、今だ残る生々しい爪跡を見たり、地元民から当時の様子を聞いたりすると、「本当に凄い雨だったんだ」と思わせられた。
 

歯長峠1
愛媛県宇和島市の歯長峠
42番仏木寺から43番明石寺の区間は、昔ながらのへんろ道(峠)は通行禁止で、
へんろは大回りして国道(トンネル)を通るよううながされた


歯長峠2
見るも無残・・・

歯長峠3
崖面の修復作業中

歯長峠4
国道沿いの森が崩れ落ちて、本来見えないはずの卯之町が見えている




十夜ヶ橋4
別格8番十夜ヶ橋(永徳寺)本堂(愛媛県大洲市)
近くを流れる肱川が氾濫し、1m以上の浸水があった

十夜ヶ橋3
十夜ヶ橋

十夜ヶ橋2
本堂内
水位を示す線に注目

十夜ヶ橋1
本堂のご本尊
この仏像の足下5センチのところで水は止まったそうな


太山寺1
52番太山寺(愛媛県松山市)
本堂まで行けなかった唯一の札所

太山寺2
いまだ通行止めの太山寺参道


横峰寺への道2
60番横峰寺への道
7月の豪雨と9月の台風のダブルパンチか・・・
遍路たちはこれを越えて進む



 豪雨と台風――この二大インパクトがあったせいか、例年に比べ「遍路が少ない」そうである。ソルティがお世話になった愛媛県四国中央市の遍路ハウス毛利荘の管理人さんによると、7月以降の宿泊者数は昨年の半分以下だという。

 思うに、危険を避けたいという気持ちばかりでなく、「地元の人が苦しんでいるこんな時に、のんきに遍路なんて・・・」と巡礼を控える人が多かったのではなかろうか。
 昔と比べて、今の遍路はずいぶん楽である。道は整備されて道標もしっかりある。各地にトンネルができて峠越えが減った。宿もコンビニも充実している。へんろ道に沿って鉄道やバスが走っているところも多く、疲れたら交通機関を利用できる。「へんろ=死と隣り合わせ、へんろ=苦行、へんろ=世捨て人」といったイメージは今や時代遅れである。とくに、金と暇と健康に恵まれなければできない通し打ちの歩き遍路は、最高の贅沢と言われている。(実際、その通りだとソルティも思う) それが分かっているから、多くの遍路は、復興ボランティアとしてならともかく、ただの通りすがりの遍路として災害現場に行くのは気が引けるのかもしれない。

 だが一方で、こういう時だからこそ遍路に行くべきという考え方もある。
 つまり、宿に泊まったり、道中の店で買い物したり、交通機関を使ったり、お寺に御朱印代を払ったり、四国にとってお遍路さんは貴重な財源の一つなのである。早い話、遍路の激減は民宿を経営する人にとって打撃となる。
 そうした意味合いから、政府は7月7日の豪雨災害について、「西日本豪雨復興キャンペーン(13府県ふっこう周遊割)」というのを実施していた。(すでにほぼ終了)
 簡単に説明すれば、指定期間中に対象府県に観光した旅行客に対し、宿泊にかかった費用のうち一泊に付き上限4000円までを補助(キャッシュバック)するというものである。たとえば、5000円のホテルに泊まったなら、うち4000円は政府が負担してくれる。3500円の民宿なら全額補助になる。県ごとに条件は異なるが、一個人が申請可能なのは、各県ごとに2泊から最大5泊までである。四国は四県とも対象府県に含まれていた。
 ソルティは、徳島県のある宿に泊まった時にご主人からこの事業について聞いた。一瞬、「バラマキ事業」という気がしないでもなかったが、旅費節約のためにこれを利用しない手はない。旅先で判子を買って、郵便局でしこしこ申請書を書いて岡山にある事務局に送付し、結果的に数泊分を公費負担することができた。

 遍路ははたして観光か?――という声もあろう。
 これまでの記事でお分かりのように、ソルティにとってはもちろん観光でもある。

 復旧がスムーズに進み、多くの人が四国に行かれますように。

 サードゥ、サードゥ、サードゥ


三人の尼