1960年新潮社

 なんだかここ最近、妙に純文学しているソルティである。それも、昭和の・・・。
 平成の終わりを目前とし、時代の移り――昭和は遠くなりにけり――を意識しているのだろうか。あるいは、「昔は良かった」という懐旧の情のあらわれ(=老いの繰り言)か。あるいはまた、一昔前の日本の風情がかすかに残っている四国遍路に浸かっていたせいなのか。

 しかし、『雪国』と『みずうみ』が同じ作家の手によるものと判じるのは、一見、困難である。
 前者は、古き良き日本の地方の風物と、因習にとらわれながら芸者として生きる女の美しくも激しい「生」を描いたものであった。一方後者は、ありていに言えば、都会に住むロリータ嗜癖ある中年変質者の行動と内面を執拗に描いたものである。夢とうつつを織り交ぜる語り技巧の卓抜さや、俳句や王朝文学につながる一刷毛の自然描写の凄みという点で、両者は通底しているのだけれど、一作家の「ヤヌスの鏡」的な裏表を感じる。
 やはり、川端康成ってすごい!!

 川端の描いた「魔界」的なるものは、もう現在ではテレビやインターネットを通じ、「お茶の間」的になってしまったように思う。虚しさを抱えたロリータ嗜癖ある変質者の中年男なんて、珍しくもなんともない。いい悪いは別として、昭和から平成にかけて「日本人の底が抜けてしまった」、別の言い方をすれば、「裏(本音)も表(建て前)もすべてがぶっちゃけられて、等しくメディア化(商業化)されてしまった」と思うのである。(基本デフォルト「昭和」の自分はまだそこに慣れていない
 
 はたして、川端康成がよみがえってAKBやNGTの少女たち、及び彼女たちを尾け回すオタたちを見たら、何を思うだろうか?
 

評価: ★★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損