2002年集英社

 『王朝まやかし草紙』同様、平安時代の京都を舞台とした短編連作ミステリー。検非違使庁(いまの警察)で働く藤原資麻呂こと髭麻呂が、都で起こる様々な怪事件に取り組んでいく様子をユーモラスに描く。

 『王朝』でも感心したキャラクター造りのうまさがここでも際立つ。臆病でお世辞にも利発とは言えぬものの気立てのやさしい主人公髭麻呂は愛すべきボケキャラ。餓死寸前のところを髭麻呂に助けられ、今は有能な片腕として活躍する雀丸少年のやんちゃぶりもいい。髭麻呂からの求婚をじれったい思いで待つ恋人梓女(あずさめ)は、美しくて賢くて、肝も据わっている。その祖母と母親のパワフルな「婿来い」接待攻撃にはさしもの髭麻呂もたじたじ。諸田の作品はどうやら女性上位と相場が決まっているようだ。

 あっと驚くような大きなトリックこそないが、文章はこなれていて、時代風俗を取り入れるのも巧みで、実際にあった花山天皇の陰謀がらみの出家事件(986年寛和の変)を上手に筋に生かしているあたりは手練の技。そう、藤原一族の権謀術数はこの時代を語るうえで欠かせない要素である。

 王朝物を読んで面白いのは、舞台となる京の町のつくりが昔から変わっていないので、通りの名前(たとえば四条烏丸)が出てくると、町のどのあたりというのがすぐに思い浮かび、現代の風景と重ね合わせられる点である。1000年隔てて存在する二つのパラレルワールドを行ったり来たりできるのがなんとも興趣深い。

京都の町




評価: ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損