1985年台湾
119分

 幼なじみの男女のうまくいかない恋愛関係を、近代都市へと急速に変貌していく80年代半ばの台北を舞台に描く。

 主演カップルをつとめるのは、のちにヤン監督の妻となった台湾の人気歌手ツァイ・チンと、ヤン監督の同僚で親友でもあったホウ・シャオシェン監督。俳優が本職でないこの二人の自然体演技が実に素晴らしい。音楽をヨーヨー・マが担当しているのも貴重である。

 『牯嶺街少年殺人事件』(1991年)同様、真価が十全に認められるまでに時間がかかった作品で、日本での劇場公開はヤン監督没後10年となる2017年であった。庶民のありふれた日常を淡々と描写した地味な印象が、逆に大衆受けしなかったのかもしれない。
 ソルティは、ホウ・シャオシェン演じる青年のやり場のない若さの鬱屈ぶりに、大島渚の『青春残酷物語』(1960年)を連想した。むろん、路上で不良少年にナイフで腹を一突きされ、シャツを真っ赤に染める自らの血を見るシーンは、『太陽にほえろ』の松田優作を。


台北の夜
夜の台北市街


 ところで、先日、台湾が同性婚を合法化する法案を閣議決定したというニュースを見て、台湾の変貌のマジなることをつくづく思った。
 80年代に最初の台湾ブームが訪れたとき、日本の旅行業界の売り文句は、「台湾には失われた日本の面影が残っている」といった風であった。70年代の日本列島改造ブームでまたたく間に姿を消していった、昔ながらの日本の里山風景や街並みや地に着いた人々の暮らしぶりなどが、郷愁の対象になったのである。つまり、台湾は日本より近代化が遅れていた。
 その後、この映画にも描かれているように、台湾にも凄まじい近代化の波が押し寄せて、国土も町並みも産業形態(仕事)も文化も人と人との関係のあり方も、欧米風に(日本風に)変わっていった。台湾ではいま環境破壊が重大な社会問題となっている。

 社会の近代化は、その社会を構成する人々の近代化をも当然意味するわけである。前近代的価値観を脱し、自由と平等の近代的価値観を人々は身に着けていく。
 同性婚合法化のアジア一番乗りは、日本ではなくて、台湾だった。
 いつのまに日本人は、台湾人に追い越されてしまったのだろう?



評価: ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損