2016年フランス・ドイツ合作
113分

 婚約者フランツを対仏戦争で亡くしたアンナは、悲しみに暮れるフランツの年老いた両親と一緒にドイツのある町に暮らしている。ある日、アンナがフランツの墓参りに行くと、墓前には涙を流すフランス青年の姿があった。彼の名はアドリアン。フランツの親友であったというが・・・。

 上質のミステリーラブロマンスである。
 こういった大人の恋愛映画を撮らせたら、フランス人のゲイに敵う者はいない。オゾン監督は、シャーロット・ランプリング主演の『まぼろし』、カトリーヌ・ドヌーヴ出演の『8人の女たち』、ジャンヌ・モロー出演の『ぼくを葬る』などを撮っている。実力ある大女優の贔屓にあずかっていることからも、女性を描く才能の並みでないことが知られる。本邦の木下惠介に似ていよう。(ちなみにオゾン監督は映画俳優張りのイケメンである)
 ここでの主人公アンナも、実に魅力的に、実に繊細に、実にリアリスティックに描かれている。演じる女優パウラ・ベーアアンナも見事に役を理解している。ニコール・キッドマンばりの直観力を感じさせる今後が楽しみな女優である。

 オゾン監督のことだから、フランツの友人だという男アドリアンの正体は、実はフランツの恋人だった(!)というオチかと思っていた。フランツはつまり、アンナと偽装結婚しようとしたのではないか、と。
 が、そんな――今となっては誰もが考えつくような――常套手段を使うオゾンではなかった。むしろ、進んでそう誤解させるような「仄めかし」を入れているあたりが小憎らしい。

 ドラマの本領は、アドリアンの正体がばれてからである。
 国籍も国境も政治も思想も戦争も憎しみも義理も遠慮も世間体も、すべてを乗り越えていく女の愛のひたむきさが、きわめて日常的な三角関係の中で潰えていくのを見るのは悲しい。
 男のバリアと女のバリアはかくも異なる。
 

 
評価: ★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損