1992年講談社より刊行
1996年文庫化

「読んだ誰もが騙される鮮烈無比なるトリック、意外にして衝撃的な結末」といったネット上での紹介コメントに惹かれて手に取った。

東京の繁華街で猟奇的殺人を重ねるサイコキラーの物語である。
犯人の名(蒲生稔)は最初から読者に示されており、犯人とその家族の行動を中心に語られいく。
アリバイや密室や一人二役ものとは考えにくいから、根幹となるトリックは『アクロイド殺し』のような叙述トリックだろうと推測がつく。
そこまでくればもうトリックを見破るのは難しくない。

血塗られた手


半分まで読んだところで、手の内が分かった。
あとは、読者に決して嘘をつかずに読者をだまそうとする作者のテクニックを、お手並み拝見とばかり楽しむこととなる。

ちなみに、ソルティがトリックを見破った一番の勝因は、一家の主婦である蒲生雅子の語りの中に、同居しているはずの姑に関する話題がまったく出てこないからであった。
嫁の立場からして、そんなことあるわけない。
作者安孫子は、そこに読者の注意を向けたくないのである。

エログロが苦手な人にはお勧めできないが、質量ともに節度ある、非常に完成度の高い小説である。
巻末の笠井潔の解説も素晴らしい。



評価:★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損