2004年原著発行
2017年早川書房

 ストックホルム市警のエーヴェルト・グレーンス警部の活躍を描くシリーズ2作目は、人身売買と性的搾取というこれまた重いテーマである。ソルティは『三秒間の死角』、『死刑囚』と読んできて、3つ目にしてこの作家の作風を表す言葉を見つけた。
 イヤミス系骨太社会派ミステリー

 イヤミスとは、「イヤ~な読後感が残るミステリー」のこと。
 名探偵の推理でトリックが解明し真犯人が捕まって一件落着、というミステリー(本格探偵小説の多くはこのタイプである)とは違って、読み終わった後に奥歯に物がはさまったようなスッキリしない気分、あるいは鉛を飲み込んだような重苦しい気分にさせられる。
 その原因はさまざまであるが、日本の推理小説はそもそも欧米のものに比べてイヤミスっぽいものが多い。横溝正史とか松本清張とか森村誠一とか。おそらく、日本の閉鎖的風土と太平洋戦争敗退という過去が大きく関わっているのだろう。ソルティにとってのイヤミス NO.1は『虚無への供物』だろうか。だいたい社会問題をからめると、まずイヤミスになりやすい。

 「ボックス21」というタイトルは、駅のロッカーの番号を意味する。口の上手いポン引きにだまされて故国リトアニアからスウェーデンに連れてこられ、マンションの一室に監禁され、毎日12人の男の相手をすることを強要された二人の少女。彼女たちがポン引きに内緒で確保した唯一の所持品保管場所がボックス21だったのである。そこに隠されていた、鬼のグレーンス警部を恐怖させ泣かせるほどの秘密とは何か!?

コインロッカー


 スウェーデンでは1998年に買春禁止法が施行された。売るほうではなく、買うほうを罰する法律である。フェミニズムの強いお国柄が反映されている。
 ソルティは2000年代にエイズに関する市民活動に従事していて、国際会議に参加する機会があった。世界各国からエイズに関する様々な分野の研究報告や声明やデモストレーションやワークショップや展示があったが、数ある議題の中でもセックスワークに関するものは関心の的であった。どの国であろうと、セックスワーク(売買春)と性感染症は切り離せないからだ。
 その時感じたのは、どうやら国際的には「売買春合法化」の流れにあるということだった。売買春を法律で厳しく罰すると、売るほうも買うほうも地下に潜り、かえってコントロールできなくなる。裏社会による非合法な人身売買がはびこり人権蹂躙が進行する。行政民間問わず保健衛生や福祉の手が届きにくくなり、感染症やドラッグが蔓延する。それよりは、合法化して行政が管理することで、コントロール下に置いたほうがよい。セックスワークで働く女性や男性の安全や健康や雇用環境も改善できよう。そういう理屈である。ドイツやオランダが先進的な例として紹介されていた。国際的人権団体アムネスティは売春合法化を支持している。
 ところが、調べてみると、現在スウェーデンやフランスのように買春禁止法を制定しようという動きが高まっているようである。
 時代が変われば人の価値観も社会動向も変わっていく。

 作者は、スウェーデンの買春禁止法を批判しているのではない。が、それによって起こる性犯罪の地下潜伏化、それも近隣の貧しい国々の少女を巻き込む卑劣で残忍な手口について、強い憤りを抱いているのが伝わってくる。ポン引きから手酷い暴行を受けて病院に担ぎ込まれた瀕死の少女が、尊厳と正義をかけて最期の闘いに力を振り絞る姿は、傷ましくも雄々しい
 それだけに、結末のイヤミスぶりは尋常ではない。
 


評価:★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損