2016年イタリア
106分


 原題 Un bacio 「キス」
 
 高校生の男子2人と女子1人、学園のはみだしトリオが主役の青春ストーリーという触れ込みに、『藍色夏恋』(2002年)や『GF*BF 女朋友、男朋友』(2012年)のようなビタースイートな青春恋愛映画を想像していた。原題も邦題もそんな甘酸っぱいノリであるし。
 が、実際はビターを通り越して、咀嚼を拒むほど後味悪かった。

 3人のうち1人がゲイ(レズビアン)でトライアングルな関係が生じるところは上記2作と近いのであるが、ちょっとしたきっかけ――それが最初で最後のキス――から関係がこじれて、修復されることないままに悲劇の結末へと運ばれていく。
 本作は、2008年にアメリカの中学校で実際に起こったゲイのクラスメートに対するヘイト殺人がもとになっているそうだ。現実はかくも無情で過酷である。

 アメリカの話を持ち出すまでもない。本作のプロットから容易に想起されるのは、一橋大学アウティング事件である。
 

一橋大学アウティング事件とは、2015年4月に一橋大学法科大学院において、同性愛の恋愛感情を告白した相手による暴露(アウティング)をきっかけとして、ゲイの学生が投身自殺したとされる事件。翌2016年に死亡した学生の遺族が相手側の学生と大学の責任を追及して損害賠償を求める民事訴訟を起こして広く報道されるようになった。
(ウィキペディア『一橋大学アウティング事件』より抜粋)

 ゲイの友人から思いを告げられたノンケの男子学生が、混乱と戸惑いを一人で抱えることができず周囲にアウティングしてしまい、傷ついたゲイの学生が自殺したという傷ましい事件であった。本作では、思いを告げられたノンケの男子学生がゲイの友人を教室で射殺してしまう。より衝撃的で悲惨な結末であるが、構造的には同じである。

 惚れた相手に思いを伝えたい、少しでも近くにいたい、話をしたい、仲良くなりたいという気持ちは、男も女もノンケもゲイも変わりない。ましてやそれが思春期で最初の恋であればなおいっそう。
 でも、告白されたほうにそれを受け入れるだけの心の用意があるかと言えば、その限りではない。まだ恋愛できるほど成熟していないかもしれない。打ち明けてくれた相手をなんとも思っていないかもしれない。はた迷惑なだけかもしれない。
 相手が異性からであっても突然の愛の告白は心騒がすものなのに、もし相手が同性で自分はノンケであったら、たとえ差別意識はなくともパニックに陥る可能性は否めない。受け入れるのは無理だとしても、相手をなるべく傷つけずに上手に断り、その後も良好な関係を保ち続けるのは、大人同士であっても難しい技だろう。
 
 恋よ恋、わが中空になすな恋、恋には人の、死なぬものかは
 (能『恋重荷』より)
 
 この映画の後味の悪さは、身に覚えがある者にとって「古傷がうずく」からなのだろう。


akagera5


評価:★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損