「ある朝、蒼を感じた」

――というのは、1980年刊行の山口百恵著『蒼い時』の出だしである。
 三浦友和との結婚が決まり、芸能界引退を間近に控えた頃の心象風景である。
(ソルティは百恵ファンだった)

 最近、家の近くのスポーツクラブに入会した。
 週3回ほど通って、筋トレしたり泳いだりしている。

 昨年末に四国遍路から戻った時から、5キロ太ってしまった。
 いまやってる介護の仕事は、遍路前に勤めていた老人ホームの仕事に比べると肉体的にはまったく楽なので、運動量が全然足りない。
 ほうっておくとブタになる。
 一年間悩まされた五十肩もやっと治癒したので、たるみきった体にカツを入れることにした。

 水の中にいると気分がよい。
 体に蓄積された有害な電磁波が水の中に溶け出していくような気さえする。
 小一時間泳いで、広いお風呂に入ったあとは、心身ともにさっぱりする。
 もっともお手軽な心と体のデトックスである。

 日中どの時間帯でも利用できるのだが、やはりベストは夜である。
 昼は地域の高齢者で混んでいる。
 とりわけ有閑シニアマダムたちの社交場と化している。
 ウォーキング専用の1コースをお喋りしながら何往復もする彼女たちが作るビッグウェイブは、お隣の2コースで泳いでいる人の進路を捻じ曲げてしまう。
 人力の凄さを体感する。

 さすがに夜7時を過ぎると高齢者の姿は減って、一日の仕事を終えた会社員たちが多くなる。
 ソルティはもっと遅く、夜9時頃を狙って行く。
 プールは空いている。
 コースを独り占めできるときもある。
 
 遅くいくもう一つの理由がある。
 ここの施設は夜11時に閉館で、泳げるのは10時半までとなっている。
 その最後の30分間がプレミアムタイム!
 10時になるとプールのメイン照明が消えるのだ。
 残るのは、プール周囲の真綿色の小さな灯りと、プールの水中から照らすライトだけ。
 むろん、ガラス窓の外は闇。
 すると、神秘的なブルーの光が水中から水面、水上に満ちる。
 
 蒼い時———
 
 あのとき百恵ちゃんが感じたのはこんな「蒼」だろうか?
 そんなことを思いながら泳いでいる。


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