1959年大映
107分
原作 谷崎潤一郎
音楽 芥川也寸志
撮影 宮川一夫

 『鍵』の映画化というと、ソルティ世代ではまず池田敏春監督、川島なお美主演の1997年版を想起する。
 ヴァイオリンのようなつややかな裸体を透明な湯に沈め、朦朧とも恍惚ともつかぬ面持ちで浴槽のふちにしなだれている、当時「失楽園」女優として絶好調だったなお美の宣伝ポスターが目に浮かぶ。
 あのポスターはやらしかった。 
 
 大映の誇る大スター、グランプリ女優の京マチ子が、なお美レベルの自己開示を許すはずもなく、相手役の中村鴈治郎の煩悩まみれのねっとりした眼光をもってしても、この作品のエロ度はたいしたものではない。

 いや、そもそも京マチ子は一般に思われていたほど色気があるのか、という点もある。
 きれいなのは間違いない。妖しさを引き立てる顔立ちなのも確かである。『羅生門』や『雨月物語』における存在感は大女優の名に恥じない。
 しかし、たとえば同じ大映スターであった若尾文子、山本富士子とくらべたときに、「女」を演じて妙にサバサバしているような気がする。宝塚の男役が退団したあと、女役をやっているような印象というか。大地真央とか天海祐希のような・・・。
 その意味では、京マチ子の出演作で最も印象的なのは、井上梅次監督によるミュージカル『黒蜥蜴』(1962)の男装である。この映画は面白かった。三島由紀夫作詞「黒蜥蜴の歌」に合わせて歌い踊る手下どもがショッカーのようで、超シュール。

黒蜥蜴

 市川崑監督がまたエロを撮れない(撮らない?)人である。
 『鍵』は谷崎文学の中でも、『瘋癲老人日記』と並んで老人の変態性欲を描いて煽情的な作品の一つと思うが、この映画を観ていると、どうしても市川崑の金田一耕助シリーズの一作のように思えてくる。結末では毒殺事件まで出てくる! 
 若尾文子を主演に撮った木村恵吾や増村保造の谷崎作品、あるいは加藤泰の『江戸川乱歩の陰獣』などとくらべると、エロ度の低さ、変態度の薄さを指摘せざるを得ない。
 潤一郎ファンは納得するまい。

 ま、そうであればこそ、市川崑は大衆に愛された娯楽作品をあれほどたくさん作れたのであろう。
 良くも悪くも健全なのである。 


 
おすすめ度 : ★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損