1896年初演
2010年岩波文庫(訳:浦雅春)

かもめ


 「演劇史に燦然と輝く名作」と称されるチェーホフ『かもめ』をはじめて読んだ。
 むろん、舞台も見たことない。

 読んでみて、正直、「なんでこれが名作なの?」という思いが湧いてくる。
 登場人物こそ多くて、恋愛模様こそ賑やかであるが、舞台上では事件らしい事件も起こらず、単調で退屈な筋立てである。
 「結局、何が言いたいの!?」と思わず呟きたくなる。
 実際の舞台を見れば、また印象が違うのだろうか?

 ――と思って、はたと気づいた。

 まさにこうやって、非日常的なドラマチックな事件を求める心の習性が、日常を蝕んでいく様を描いているのが、この戯曲なのだ。
 登場人物のだれもが、「今ではないいつか」、「ここではないどこか」、「この自分ではない理想の自分」を求めて葛藤し、現在を否定し、欲求不満に陥っている。
 子どものように「いまここ」に安らいで幸福を味わうことのできる感性をとうの昔に喪失し、不毛な人間関係と中身のないセリフのやり取りだけが舞台上に繰り広げられる。
 つまり、現代人の多くが陥っている状況が描き出されている。

 今回のコロナ禍のポジティヴな面をしいてあげるとすれば、平凡な日常の営みの価値を気づかせてくれたことだろうか。




おすすめ度 : ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損