増谷文雄編訳『阿含経典』(ちくま学芸文庫)も3巻目に入った。
 前2巻で採録された「相応部経典」から離れて、「中部経典」、「長部経典」、お釈迦様の最期の日々を伝える「大般涅槃経」、お経誕生の経緯を記した「五百人の結集」などが取り上げられている。


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 しょっぱなに登場する「数学者モッガラーナの問い」(中部経典107)が興味深い。

 数学者モッガラーナの問い、「法と律とにおいて、順序をふんで学ぶべきこと、順序をふんでなすべきこと、順序をふんで行くべき道はあるか」に対し、お釈迦様が答えたお経である。
 すなわち、仏教において、悟りあるいは解脱にいたるための段取りが記されている。

 お釈迦様は次のような順序を語る。
  1.  すべからく戒を具する者となれ
  2.  すべからく諸根(6つの感覚器官)の門を守るがよい
  3.  食において量を知るがよい
  4.  行住坐臥のつつしみを修することに専念するがよい
  5.  すべからく正念(ただしい気づき)と正知(ただしい智慧)を身につけるがよい
  6.  ただ一人して住すべき人里はなれた空閑処をえらび、結跏趺坐し、身を正して、正念が目のあたりに現前するがごとくにして坐するがよい
  7.  五蓋(貪欲・瞋恚・惛眠・掉悔・疑惑)を除き、心を清浄にするがよい
  8.  さすれば、初禅、第二禅、第三禅、第四禅に至る
 相手が数学者だけに、お釈迦様もあたかも方程式を解くように、理路整然と語られたのだろう。
 
 上記7にある五蓋(ごがい)とは、禅定をつくることを妨げる五つの心のはたらきのこと。
 テーラワーダ仏教の比丘であるスマナサーラ長老と、浄土真宗誓教寺住職・藤本晃共著による『ブッダの実践心理学 第二巻 心の分析』を参考に、簡潔に定義すると、
  • 貪欲(どんよく) ・・・・色声香味触の刺激を受けたい気持ち
  • 瞋恚(しんに)    ・・・・怒り
  • 惛眠(こんみん) ・・・・心が小さく縮こまること、眠くなること
  • 掉悔(じょうご) ・・・・混乱すること、後悔すること
  • 疑惑(ぎわく)  ・・・・ブッダの教えを試そうともせず、ただ嫌がって拒否すること

 ソルティは五蓋のうち、とくに惛眠につけこまれやすい。
 いや、日本人は意外とその傾向が強いのか、たまに瞑想会などに参加すると、みな瞑想の合間にコーヒーばかり飲んでいて、指導してくれる外国のお坊さまをあきれさせたりする。
 電車の中の居眠りも日本人の得技で、外国ではなかなか見られない光景という。

車内睡眠

 
 また、掉悔(じょうご)について言えば、仏教では後悔はNGである。
 
 仏教では後悔は罪だと思っています。「後悔する人は罪を犯している」と考えます。「悔い改める」という言葉がありますが、天国に行きたければ、「悔やんで改める」のではなく、ただ「改める」だけにした方がいいのです。
 
 瞑想するときも開き直った方がいいのです。今までどんな悪いことをしていても、そんなものはどうでもいい、と開き直って明るい心で始めるしかないのです。後悔すると、過去の失敗や罪を思い出すと、心が暗くなってエネルギーが消えます。それで超越的な知識が生まれなくなります。

(『ブッダの実践心理学 第二巻 心の分析』、サンガ文庫)
 
 何十人をも殺害した凶賊アングリマーラでさえ、お釈迦様と出会って改心し、修行して、阿羅漢となれた。
 仏教の楽天性、ここに極まれり。