2018年スウェーデン・デンマーク合作
106分

 北欧発のSF大作。
 原作はスウェーデンのノーベル文学賞作家ハリー・マーティンソンの長編叙事詩。オペラ化もされているようだ。

 豪華設備の整った巨大宇宙船アニアーラ号が、8000人の乗客を乗せて旅立った。
 放射性物質で汚染された地球から火星へ、人々を運ぶためである。
 しかし、衝突事故によって燃料は失われ、火星への軌道を外れ、修復不能なまま宇宙空間に投げ出される。
 もはや、地球にも火星にも到着できる可能性はゼロに等しい。
 
 ――といった苛酷な状況において、宇宙船の中でいったい何が起こるか、船内に閉じ込められ希望や目的を失った人々がどのように振舞うようになるかを、3週間後、1年後、3年後、10年後、24年後・・・と時系列で切り取って描いていく。
 言うなれば、終わりなき日常に閉じ込められた人間たち、ゴールの見えない自粛生活を強いられる人間たちに起こり得るドラマである。
 なんとまあ、今のコロナ世界を予言していたことか! 

 “ミーマ”と呼ばれる「美しい地球を体験する」ヴァーチャルリアリティ装置に依存する人々、カルト宗教の発生、支配-非支配関係の醸成、職務に忠実たろうとする者、自暴自棄になる者、恋や育児に希望を見出す者、精神を病む者・・・・さまざまな人間の振る舞いが描き出されていく。

 映像のクオリティは高い。
 美しく見ごたえある。

 北欧制作らしいと言うべきか、主役の女性はレズビアンで、同僚女性との恋愛やセックス、共同育児の様子などが描かれる。むろん、船内の誰もそれを特別視することはない。
 子供の誕生と成長は人類の希望の最たるものであるが、悲しいことに、心を病んだ恋人は子どもを殺めて自害してしまう。
 
 軌道への復帰を可能にするエネルギー源(謎の飛行物体)の捕獲に成功し、いったんは希望に湧いた船内であったが、結局その物体は人間の手におえる物質ではないと判明し、人々はさらなる絶望に追いやられる。
 あらゆる希望が失われたところで、物語は終わる。
 
 なんともまあ救いのない話で、北欧人の現実主義を見る思いがする。
 しかも、最後のシーンで描かれるのは「598万年後」ときた。
 琴座に達したアニアーラ号は、破壊され、残骸となって漂う。

 598万年という時空から見れば、598万年前に起こったアニアーラ号の事件など、いかほどのものであろうか。
 そこでの喜怒哀楽・悲喜こもごもの人間ドラマなど、「一瞬」の数億分の一にもならない。
 宇宙的ものさしで見た人類の価値、人間の営みという、「無」を示す地点までカメラを引き切って、ジ・エンドとなる。
 この圧倒的な非ヒューマニズム。
 さすがノーベル文学賞というべきか。

 
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アニアーラ号
 

 思うに、人は希望を持つから絶望する。
 はなから希望など持たなければ、落胆も失望も後悔もすることなく、たんたんと日々を生きられる。
 そこが地球だろうが、火星だろうが、宇宙空間だろうが、閉鎖された宇宙船の中であろうが、人間がやっていることは基本、「食べて・動いて・まぐわって・クソして・寝る」だけだからである。
 衣食住と安全さえ保障されて、プラス孤独や退屈を紛らわす手段や仲間があれば、基本どこでも生きられるし、自暴自棄になる必然性はない。
 アニアーラ号ではそれは保障されていた。(食材が尽きたあとは、自主栽培の藻を食料とした)
 そう考えると、アニアーラ号の人々は「新しい日常」に馴染めなかったのである。
 
 いろいろ考えさせられるところの多い秀作である。
 

 
おすすめ度 :★★★ 

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損