2010年アメリカ
100分

 その昔、ハリソン・フォード主演の『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985)を観たとき、はじめてアメリカには「アーミッシュ」と呼ばれるドイツ系移民の宗教集団があることを知り、彼らが電気もガスも自動車も使わない前近代的な質素でストイックな生活をいまも送っていることに驚いた。
 アメリカって広いなあ、キリスト教って奥深いなあ、信仰って不思議だなあ、と思ったものである。

 晩年をアメリカで過ごした覚者クリシュナムルティが、アメリカの特徴を人に問われて、「多様性」と一言でまとめていたが、たしかに人種と宗教と民族文化の多様性や複雑さは日本とは比較にならない。
 国を一つにまとめるには、強力な権限を持つ憲法や武力に頼るしかないというお国事情がよくわかる。(逆に言えば、アメリカという国は一枚岩でないので、「一筋縄ではいかない」という特徴にも強みにもなる。)


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Gordon JohnsonによるPixabayからの画像


 この映画もまた、これまでソルティがよく知らなかったスコットランド系移民(スコッチ・アイリッシュ)の特殊な生活文化を背景としている。

 本作は、アメリカ中西部のミズーリ州オザーク高原を舞台に、「ヒルビリー(丘のスコットランド人)」と呼ばれる人々の生活を背景として展開する。
 彼らは、19世紀に山腹の痩せた土地に定住した移民の子孫で、キリスト教徒の白人だが、いくつかの姓に属する人々が血縁と姻戚関係によって強く結びつき、独特の閉鎖的な因習と「掟(おきて)」が、法律よりも重んじられている。(ウィキペディア「ウィンターズ・ボーン」より抜粋)

 こうした背景を知らないと、「一体これ、いつの時代の話だよ」、「無法地帯かよ」、「なんでこんなおっかない土地にあえて住み続けるんだよ」と、不思議に思わざるを得ないだろう。
 よそ者がドライブ中にうっかり道を間違えて入り込んだら、二度と出てこられないんじゃないかと思うような殺伐とした不穏なムードが漂う地帯である。
 「気性が荒く戦闘的。社会よりも個人を優先。反政府の傾向が強い。」と評する人もいる。
  
 そんな土地に生まれ育った17歳の少女リーは、麻薬の密造で逮捕され保釈されたあと行方不明となった父親、心を病んで家事ができない母親にかわって、家を守り、幼い弟と妹を一人で育てていた。
 ある日、一人の男がやって来てリーに告げる。
 父親が次の裁判に出頭しなければ保釈金はそのまま没収される。
 保釈金を作る際に担保とした家と土地は売りに出されることになる。
 かくして、リーは父親探しを決意する。
 
 スリル満点なストーリー展開も、どんでん返しのような仕掛けも、派手なアクションシーンもない。
 家と土地と家族を守るためにやくざな父親を探す、気骨ある少女の地味な、しかし不屈な闘いの物語である。
 その過程を通じて、彼女もまさしくスコッチ・アイリッシュの血を汲む一族の者であることを、自らに、そして周囲の同族たちに証明してみせる。

 少女リー役のジェニファー・ローレンスの演技は、神が乗り移ったかのよう。



おすすめ度 : ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損