1966年東映
88分、白黒

 藤純子主演『緋牡丹博徒 お竜参上』や『江戸川乱歩の陰獣』などの傑作で知られる加藤泰の撮った明治時代の郭もの、ということで興味を持ち、レンタルした。

 まず、白黒とは思わなかった。
 加藤泰の作品は、そのローアングルに徹した奇抜な構図と共に、色彩のシュールなまでの鮮やかさが印象に強いからだ。
 しかし、66年というのは日本ではまだ白黒映画が主流だった頃か。66年キネ順ベストテンを見ると、白黒とカラーの割合は半々である。(『大魔神』の撮られた年だ)
 舞台は遊郭である。カラーだったら魅力倍増、間違いなかったろう。

 出演者がいい意味で地味め。
 主演の桜町弘子は東映の時代劇や任侠映画によく出ていたようだが、はじめて顔を見知った。
 共演の久保菜穂子は大映の眠狂四郎シリーズに何作か出ていて、ソルティは顔なじみであったが、一般には知られていまい。
 渋い重鎮俳優の代名詞たる夏八木勲がこの作品でデビューしている。遊郭はじめての大工の童貞青年役を演じているのが可愛い。
 本作の出演者中、もっともよく知られているのは、おそらく菅井きんだろう。
 遊郭の情け容赦ないやり手ババアを演じて、まさにドンピシャの名演である。こういう役をやらせたら彼女以上の役者はなかなかおるまい。それでも昔は御職(女郎のトップ)だったというから愉快。

 『吉原炎上』、『海は見ていた』、『赤線地帯』など、ソルティは遊郭映画は結構見ているので、本作で描かれる遊郭のしきたりや仕組みや雰囲気にことさら目新しいものは感じない。
 が、腹が立つのはやはり労働搾取である。
 貧しい家の娘を莫大な借金をかたに遊郭に連れてきて、一晩に何人もの客を相手に性的奉仕させる。
 主人公の娘おきぬ(=桜町弘子)がつとめる遊郭の経営者夫婦が、入ったばかりのおきぬが稼いだ金を勘定するシーンがあるが、おきぬの取り分はそのうちの五分(5%)と言う。
 なんつー、不当搾取か。
 その五分でさえ、そこから部屋の貸し賃やら食事代やら着物代などが差っ引かれていき、結局、最初の借金は減らないどころか膨らんでいく仕組みになっている。親元に仕送りするどころか、永遠に足ヌケできない。客から病気をもらうなり、歳とって売れなくなるなりして、お払い箱になる日まで。

 ソルティは性を売り買いすることにはそれほど目くじらを立てるものではないが、この頑張っても稼げないあこぎな仕組みには無性に腹が立つ。

 おきぬは客として来た大工の青年(=夏八木勲)と惚れ合って、夫婦の契りをし、救世軍の助けを借りて足ヌケする。
 郭ものとしては、数少ないハッピーエンドなのではないか。


IMG_20200902_130144
公娼廃止を訴える救世軍のシーン


救世軍とは
プロテスタントの伝道,慈善団体。メソジスト派の牧師であったウィリアム・ブースが独立して,1865年ロンドンのスラム街で Christian Missionの名のもとに貧民への伝道を始め,78年軍隊組織を模して救世軍と名を改めた。聖書を唯一の権威とし,制服をまとい音楽を用いて街頭に進出,貧民への伝道,救済活動を行い,全世界 (約 70ヵ国) に広まった。日本には 95年イギリスより渡来し,山室軍平らの努力で普及,東京に本営を構え,機関誌『ときのこえ』を出し,廃娼運動などの社会改革運動を行い,年末の社会鍋などで親しまれている。
(『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』より引用)


 知り合いのカトリックのシスターが、「救世軍」のことをいつも「十字軍」と言い間違えていたことを思い出す。
 プロテスタントの活動だったからなのだ。



おすすめ度 : ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損