2016年河出書房新書

 民俗学というと、「ちょっと昔」の庶民の風俗やしきたりや言い伝えを調査研究する学問というイメージがある。
 大体、江戸時代から太平洋戦争前くらいの「昔」というか。
 勝手にそう思い込んでいたが、別に誰がそう決めた、定義したというわけでもないらしい。

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 本書は、第1部「うわさ」編と第2部「俗信」編に分かれている。
 第2部こそ土地に残る古くからの言い伝えを取り上げ考察するという従来の民俗学の範疇におさまるものだが、第1部は副題に「現代の世間話」とある通り、現代それも70年代くらいから巷で流行った噂話が列挙されている。
 いわゆる「都市伝説」というやつだ。
 これが面白い。
  • 学校のトイレにまつわる怪談 「赤い紙・青い紙」
  • 口裂け女 「わたし、きれい?」
  • 人面犬
  • 首なしライダー
  • ピアスの穴
  • 会社訪問のうわさ 「男は黙ってサッポロビール」
  • とんだヘアー
  • フランスのブティックの試着室
等々
 どこから、何がきっかけで起こったかは知らないけれど、子供や若者を中心に一世を風靡(?)した怪談や滑稽譚に光を当てている。
 10~20代をボーっと、どちらかと言えば非社交的に生きていたソルティも聞いたことがあるものばかり。懐かしい感があった。
 上のタイトルだけ見て、「ああ」とすべて分かる人は、ソルティとほぼ同世代かそれ以上だろう。

 著者の常光徹(つねみつ・とおる)は1948年高知県生まれ。
 学生の頃から民俗学に興味を持ち、中学校の教師をしながら北陸や東北の民話について調査研究をすすめていたが、年を追うごとに語り手がいなくなり、伝承の衰退を感じていた。
 そんなとき、児童文学作家の松谷みよ子に、「目の前の伝承をみつめてみては」と言われたのがきっかけとなり、教え子である都会の子供たちを対象に話を採取したそうだ。
 それが1985年(昭和60年)のことというから、まさに昭和末期あたりからの都市伝説が出揃ったわけである。

 こういった都市伝説は、話自体の奇妙さや怖さや不合理さなどの分析、あるいは伝播経路やバリエーションの調査もさることながら、なんでその噂が当時流行ったのか、その話のどこにその時代の若者たちの意識(無意識)を揺り動かすものがあったのか、を探ることこそが面白いと思う。
 著者がそのへんをもう少し突っ込んでくれたら、という感はする。

 たとえば、口裂け女が流行ったのはソルティが高校生の頃(1979年)だったが、いま自己分析すると、当時は意識していなかったが、両耳まで裂けた女の口の形状におそらく女性器を連想し、それに噛みつかれる=去勢恐怖があったのではないかと思う。
 それがひとり童貞少年の怯えにおさまらず、メディアを騒がし全国区になったのは、やはり、「女が強くなった、女が性を語るようになった」という時代風潮が背景としてあったからではなかろうか。

 一方、口裂け女には、怖いだけでなく、どこか孤独で寂しい匂いも感じていた。
 その匂いは、ソルティの中では、後年(1997年)の東電OL事件につながっている。
 やはり、性に絡んでいる。
 性に絡むことは、一般に人々が抑圧し意識に登らせないことが多いので、逆にこういう単純には説明のつかない噂話の形をとって顕在化しやすいのではなかろうか。

口裂け女
 1979年の春から夏にかけて日本で流布され、社会問題にまで発展した都市伝説。
 口元を完全に隠すほどのマスクをした若い女性が、学校帰りの子供に 「私、綺麗?」と訊ねてくる。「きれい」と答えると、「……これでも……?」と言いながらマスクを外す。するとその口は耳元まで大きく裂けていた、というもの。「きれいじゃない」と答えると包丁や鋏で斬り殺される。
 この都市伝説は全国の小・中学生に非常な恐怖を与え、パトカーの出動騒ぎ(福島県郡山市・神奈川県平塚市)や、北海道釧路市・埼玉県新座市で集団下校が行われるなど、市民社会を巻き込んだパニック状態にまで発展した。
(ウィキペディア『口裂け女』より抜粋)
 
 コロナ禍のいま、外を歩いているのはマスク女性ばかりなので、口裂け女にとっては良い隠れ蓑になるはず。
 再来するか?
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Ed ZilchによるPixabayからの画像



おすすめ度 : ★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損