2015年アメリカ
122分

 1820年に実際に太平洋上で起きた海難事件を描いたナサニエル・フィルブリックの実録小説、『大洋の奥底:捕鯨船エセックス号の悲劇』“ In the Heart of the Sea : The Tragedy of the Whaleship Essex ” を映画化したものである。(未邦訳、題名はソルティ訳)
 この同じ事件をモデルに、ハーマン・メルヴィルは世界十大小説の一つに数えられる代表作『白鯨』を書いたという。

 『白鯨』は「難しくて読みづらい」小説としても有名で、そのイメージもあって本DVDをレンタルするのを若干ためらった。
 が、さすがに、『コクーン』(1985)、『遥かなる大地へ』(1992)、『アポロ13』(1995)、『ビューティフル・マインド』(2001年)、『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)など多数のヒット作をもつロン・ハワードである。
 一級の娯楽大作に仕上がっている。
 122分を飽きさせないストリーテリングと演出力には賛辞惜しまず。

 映画はおおむね三つの要素からできている。
 一つは、捕鯨船の乗組員たちが立ち向かう海との闘い、鯨との闘い。
 嵐、凪、船酔い、鯨との死闘、とてつもない重労働。
 ハワード監督は、スピーディに、かつ『タイタニック』を想起させる大迫力をもって描いていく。


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全長30mの白鯨

 
 二つ目は、未熟な船長(=ベンジャミン・ウォーカー)と経験豊富な一等航海士(=クリス・ヘムズワース)との男のプライドを賭けた意地の張り合いである。
 共通の想像を絶する辛い体験を通して、二人の関係が変化していく様子が描かれる。
 タイプの異なる二人のイケメン・ウォッチングという楽しみかたもあり。


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クリス・ヘムズワース(左)とベンジャミン・ウォーカー


 最後の一つは、海洋漂流譚である。
 エセックス号は巨大な白鯨によって打ち壊され、生き残った船員たちは大海原をボートで漂流する羽目になる。
 水も糧も尽き果てる。
 飢餓と絶望――。
 ここで、「大洋の奥底」で起きた衝撃の真実が明かされる。
 アン・リー監督の『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012)や大岡昇平の『野火』に共通する、生き延びるための究極の選択である。 
 描きようによっては大変深刻なテーマとなろう。
 
 以上三つの要素をバランス良く配合し、重すぎて観た後に落ち込むことのないよう、あくまでもエンターテインメントに徹してまとめている。
 ロン・ハワードはハリウッドの申し子だ。



おすすめ度 : ★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損