2013年~ BBC(英国放送協会)

 ブラウン神父は、言わずと知れた英国作家G.K.チェスタトンが創造した名探偵。
 日本での知名度では、同じ英国探偵のホームズやポワロやミス・マープルに劣るかもしれないが、直観と観察と洞察力を礎とした探偵能力ではおさおさひけをとらない。
 カトリックの神父ならではの犯罪者に対する慈悲に満ちた態度も読みどころである。
 また、物語の雰囲気づくり、読者を驚かすトリックの斬新さの点では、チェスタトンの作品はクリスティを凌駕するものがある。
 ソルティは高校時代に創元推理文庫から出ているシリーズを読破した。
 家のどこかの押し入れの段ボール箱にあるはずだが、もう一度読み直したい。
 ――と思っていたところにレンタルショップで発見したのが、BBC制作のこのシリーズであった。


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 ブラウン神父役のマーク・ウィリアムズは、映画ハリー・ポッターシリーズでロンの父親アーサー・ウィーズリーを演じている身長186センチの巨漢である。
 それだけでも、小柄のブラウン神父には似つかわしくないのだが、そもそもこのシリーズは原作を忠実にドラマ化したものではなかった。
 推理の得意な田舎臭いブラウン神父というキャラクターだけは生かしているものの、物語は毎回オリジナルなのである。
 時代設定も原作より数十年あとの1950年代の農村である。

 それを最初に知ったときは残念な気がした。
 が、観てみるとこれはこれで面白い。
 マーク・ウィリアムズは原作のイメージとは別の個性的なキャラを創り上げているし、50年代の英国の農村の日常風景や階級社会の様相を見るのも楽しい。

 『科捜研の女』がいま大人気であるが、ソルティは最先端の科学工学技術を駆使した犯罪捜査にはあまり興味がない。
 というのもそこにはアマチュア探偵の頭脳を駆使した推理ゲームが入り込む余地がないからだ。
 犯罪現場に落ちていた一本の毛髪や防犯カメラの映像から犯人が割り出される現代の科学捜査が素晴らしいのは間違いないが、ミステリーとしての面白みは欠ける。
 だいたい警察以外の人間が捜査に関わること自体、いまやあり得ないだろう。ホームズやポワロや金田一耕助や明智小五郎に出番はない。
 ソルティは子どもの頃、「大きくなったらホームズのような探偵になりたい」と思って小遣いでルーペを買って、日々観察に励んでいた。
 が、いまの日本の探偵にできるのは夫の浮気の証拠――今となっては妻の不倫の証拠。時代は変わるものだ――を見つけることくらいと知って、落胆したものである。
 といって刑事になりたいとはまったく思わなかったのだが・・・・・。


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河出書房新社より2010年発行
最先端のリアルな犯罪捜査がわかる

 
 ときに、ブラウン神父はたしかに名探偵だが、本職の神父としての力量は残念ながら???である。
 というのも、神父の担当する教区はしょっちゅう殺人事件が発生するたいへん物騒な地域だからである。
 神父自体が死体の発見者となったり、犯人に襲われたりすることもしばしばである。
 ロンドン市内のほうがよっぽど安全。
 ブラウン神父の聖職者としての影響力には疑問を持たざるを得ない。

 このシリーズ、すでに80話以上制作されていて(現在も放映中)、うち50話ほどがDVD化されている。
 ソルティは20話くらいを観たところである。




おすすめ度 : ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損