2011年イギリス、オーストラリア、アメリカ
118分

 エリザベス2世の父親ジョージ6世の吃音症とのたたかいを描いた、実話をもとにした映画。
 ジョージ6世役のコリン・ファース、妻で王妃であるエリザベス役のヘレナ・ボナム=カーター、そしてジョージの主治医役(実際には「ドクター」の資格は持っていなかったらしいが)のジェフリー・ラッシュ、主要3人の演技が素晴らしい。
 とくに、吃音症の皇族という難役に挑み、“自然な”どもりをマスターしているコリン・ファースの役者魂は賞賛に値する。

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ヘレナ・ボナム=カーターとコリン・ファース


 老人ホームで働いていた時、90歳以上の利用者に戦時中や戦後の混乱期の話をよく聞いた。
 当時、彼らは20歳前後の若者であった。
 1945年8月15日の玉音放送の話題もよく出た。
 「昭和天皇が何を話しているかわかりましたか?」
 と尋ねると、みな決まって、
 「全然わからなかった。でも、日本が負けたことだけはわかった」と言う。
 「たえがたきをたへ、しのびがたをしのび、ってところだけわかった」と言う人も多かった。
 原稿は漢文の読み下しみたいな堅苦しい文語で、難しい言葉も多く、平明な日本語とは程遠かった。
 当時の放送技術もラジオの音質も良くはなかった。
 それに輪をかけ、当時40代半ばの昭和天皇の口調は、こもりがちのうえ独特の節回しがあって、明瞭とは言えなかった。

レトロラジオ


 ソルティがリアルタイムで昭和天皇の声を聞いたのは晩年(70年代以降)のことだが、やっぱり、何を言ってるかいつも分からなかった。
 国民の多くがそうだったと思う。
 でも、それが気になることもなければ、もっとわかりやすい言葉で滑舌よく話してほしい、とも思わなかった。
 
 「巧言令色、少なし仁」
 「男は黙ってサッポロビール」
 我々日本人が、スピーチに与える重要性は決して高くない。
 首相の就任演説も、アメリカ大統領のそれにくらべれば、なんと軽く扱われていることか。

 彼我の文化の違いを感じさせる映画である。
 
 
 
おすすめ度 : ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損