2019年
89分

 レンタルDVDショップで見つけた LGBT映画。

IMG_20201108_211554

妻に捨てられた中年の海堂(=ジョーナカムラ)はやけ飲みした晩に、年下の美青年ユタカ(=こんどうようぢ)と出会う。二人は互いの孤独を埋めるように共に暮らし始める。そのうち、これまで男性経験のないノンケだった海堂は、ユタカを愛するようになる。だが、もとからゲイであるユタカには家族との関係など屈折した感情があり、二人の溝はすんなり埋まらない。

 どこかで聞いたような話だなあ~、と既視観が起こるのも無理はない。
 ちょっと前に一世を風靡したテレビドラマ『おっさんずラブ』の主人公・春田創一(= 田中圭)と同居人・牧凌太(=林遣都)の関係にかぶっている。春ちゃん:牧=海堂:ユタカ、である。
 もっとも、春ちゃんは中年と言うにはまだ早い。海堂と違って結婚もしてなければ子供もいない。

 LGBTドラマに昔からよくあるパターンとして、ゲイがノンケを好きになって叶わぬ思いに苦しむというのがある。マニュエル・プイグ原作『蜘蛛女のキス』とか、橋口亮輔監督『渚のシンドバッド』とか・・・。イバン・コトロネーオ監督『最初で最後のキス』なんかは、そのパターンのもっとも悲劇的な結末を描いている。
 『おっさんずラブ』のヒットの影響からか、あるいは実際に巷でそういう現象が増えているのか、ノンケの男がふとしたはずみで同性愛に目覚めてしまうという、これまでとは逆ベクトルのストーリーが昨今求められている(?)ようである。
 もちろん、腐女子もといBL(ボーイズラブ)の世界では、そうした設定は「王道」と言ってもいいくらいの使い古されたパターンであるが、それが今、BL界を越えて世間に流出してきたかのようだ。
 ちなみに、そういう現象を業界用語で「どんでん」と言ったものだが、今でも使われているのだろうか?

 既視感はもうひとつある。
 ソルティは観ている途中で、この映画の制作年を確認せざるをえなかった。
 「2019年」って昨年じゃないか。
 令和元年じゃないか。
 『おっさんずラブ』以後じゃないか。

 しかるに、この映画のタッチというか、雰囲気というか、描かれている世界観というか、LGBTに対するイメージというか、ともあれ全体の質感が、ほとんど80年代のゲイ映画、いやもっと特定するなら当時新宿や上野の専門映画館で上映されていた薔薇族映画のそれとよく似ているのだ。
 つまり、なんだか暗くて、後ろめたくて、隠花植物的で、十字架を背負っている風で・・・・といった感じである。

 ユタカの近所に住む若い女性たちが通り過ぎるユタカを見て、「あの人、ゲイだって。気持ち悪いよね~」と聞こえよがしに言ったり、新宿2丁目で飲んでいるノンケらしい二人組の若いリーマンが道に立つ女装子を見て、「おかま、無理無理」と口にしたり、どうにもこうにも古いのだ。
 いや、もちろん同性婚が政治テーマに浮上した令和の今だって、差別はある。偏見を持つ人はたくさんいる。当事者にだって、周囲にカミングアウトしてゲイリブに生きる人から、昭和時代を背負ったまま年を重ねたクローゼットまで、いろいろいる。なにも無理して、「明るくポジティブで未来志向の LGBT像」を描いてくれなくてもよい。
 が、ここに描かれる LGBT観はあまりにも旧式である。

 いったい、なんでこんなことが起こったのだろう?
 世間の流れに疎いソルティが知らないだけで、2丁目界隈にちょっとしたバックラッシュが起きているのだろうか?
 あるいは、生粋の(?)当事者自身がもつ令和時代の LGBT観と、最近「どんでん」したばかりの元ノンケ(遅れてきたセクシャルマイノリティ)のもつ LGBT観の、ギャップによるものなのか?
 なるほど、この映画はゲイであるユタカの視点より、元ノンケである海堂の視点が濃い。
 ひょっとして、制作サイドに生粋の当事者がいないのでは?

 WAHAHA本舗の「梅ちゃん」こと梅垣義明が、ゲイバーのママ役で出演しているのが見物。



おすすめ度 : ★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損