2007年イギリス
98分

 イギリス出身のジュディ・デンチとオーストラリア出身のケイト・ブランシェット。
 25歳の年の差はあれど、どちらもオスカーに輝く、掛け値なしの名女優である。
 映画でエリザベス一世に扮したという共通点もある。
 この二人に、やはりイギリス出身の名脇役ビル・ナイがからむというのだから、期待するなというほうが無理。

 しかも、この映画は、実際にアメリカであった女教師メアリー・ケイ・ルトーノーによる“児童レイプ事件”をモデルとしている。( “  ” をつけたのは、ソルティはこれをレイプと言っていいのか疑問に思うからである)
 34歳のメアリー先生は、教え子である13歳の少年と恋愛関係に陥り、子どもを二人生んだ。
 90年代末に全米を揺るがすスキャンダルとなったこのニュースを、ソルティも何となく覚えている。
 逮捕され懲役刑に処せられたメアリーは、出所したあと、少年(そのときは無論成人していた)と結婚した。二人は愛を貫いたのだ。(2018年に離婚)
 今年の夏、世間がコロナ一色に染まっている中、メアリーは癌により58歳で亡くなった。
 ソルティは彼女の死のニュースを最近ネットで見たばかりであった。

 本作で、この女教師(本作ではシバという名前が与えられている)を演じるのは、もちろんジュディ・デンチでなくて、ケイト・ブランシェットである。
 思春期の少年が夢中になるのも無理はないと思う美しさと天真爛漫な魅力にあふれている。
 いや、それだけ説得力をもった見事な役作りができている。

 一方、ジュディが演じるのはシバの同僚のベテラン教師バーバラ。
 生徒たちにも同僚にも煙たがられている、頑固でお堅い孤独なオールド・ミスである。
 新任の美術教師としてやって来たシバに好意をもったバーバラは、シバの行動を観察し、自らの覚え書きに記していく。
 シバと生徒との許されぬ関係をたまたま目撃しショックを受けるが、その秘密をシバと自分との関係を深めるために利用しようと企み、あえて口を閉ざす。
 そう、バーバラはクローゼットなレズビアンなのである。

 この映画の真のテーマは、女教師の“少年レイプ事件”を描くことにはなくて、それをダシにしつつ、孤独な初老の女性の不器用な愛を描くことにある。
 したがって、主役はケイトではなくジュディであり、“あるスキャンダル”とは女教師と少年との恋愛&セックスではなくて、抑圧され歪曲したレズビアニズムである。

 深い情熱と高い教養の持ち主であるにもかかわらず、他人と良好な関係を築くことができないストーカー気質の年老いたレズビアン――という、なんとも難しい役を演じるジュディ・デンチがやはり素晴らしい。(ジュディ自身は男性と結婚して娘を生んでいる、おそらくはノンケ女性)
 自らの思い通りにならないシバに対する愛情が一転憎しみに変わるや、シバと少年との秘密を学校関係者に告げ口し、スキャンダルを巻き起こし、シバを苦境に陥れる。
 なんとも陰険でひねくれた、顔も心も醜い女である。

 しかるに、設定上は憎まれ役に違いないのだが、ジュディ・デンチが演じるとただの憎まれ役にはおさまらず、女ひとりが老いて生きることの悲しみと孤独と切なさが、画面を通してじわじわと伝わってくる。
 観る者は、新聞に顔写真がでかでかと載り家族崩壊したシバのこれからの幸せとともに、バーバラの幸せをも願わずにはいられなくなる。
 
 ケイト・ブランシェット然り、ジュディ・デンチ然り。
 名役者というものは、自らが演じる役を――それがどんなに卑劣な、どんなに醜い、どんなに不道徳なキャラであれ――愛するものなのだろう。
 その愛あればこそ、観る者にとっても愛おしいキャラになりうるのだ。


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ジュディ・デンチとケイト・ブランシェット



おすすめ度 : ★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損