2012年イギリス
112分

 原題は “We Need to Talk About Kevin”
 アメリカの女性作家ライオネル・シュライヴァーの小説を原作とする。
 リン・ラムジー監督の手腕は、『ビューティフル・デイ』で確認済み。
 
 邦題は、明らかに『エヴァンゲリオン』の主題歌をパロっている。
 が、実際の内容も、アーチェリーが得意な16歳の少年ケヴィンが、通っている高校のクラスメートたち及び実の父親と妹を矢で射殺すというもので、タイトルまんまである。
 DVDの映画情報には、伊藤英明主演『悪の教典』(2012)の予告が収録されていた。
 これはサイコパスの少年の成育過程を実の母親の視点から描いた、サスペンス&ファミリードラマなのである。

弓を射る像


 幼年期のケヴィンを演じる子役、および思春期のケヴィンを演じるエズラ・ミラー、どちらも妖しく不気味な美少年ぶりで、往年のホラー映画『オーメン』のダミアン少年のよう。
 名女優ティルダ・スウィントンは、得体の知れない実の息子に戸惑い、その成長に怯え、それでも愛そうとする母親としての苦悩と、とんでもない凶悪事件を起こした殺人犯の母親(夫と娘を殺された被害者でもある)としての救いようのない苦悩とを、熱演している。
 ソルティは先に、ティルダがカリスマダンサー&魔女を演じる『サスペリア』(2018)を観ていたので、その禍々しいイメージも手伝って、怖さ倍増であった。
 
 有名なスペインのトマト祭りのシーンに始まって、赤ペンキや赤ワインや点滅するサイレンなど、全編が“赤”で覆われている。
 もちろん、赤は血の色であり、血縁の象徴(赤い絆)である。
 それゆえ、ケヴィンが人を傷つけたり殺したりする残酷そのもののシーンは一つも出てこないのに、禍々しさと忌まわしさと背筋がぞっとするような恐ろしさが充溢している。
 
 おそらく、観る者が最後に抱く一番の疑問は、これである。
 「少年はなぜ母親を殺さなかったのだろう?」
 
 サイコパスも自らの存在証明のための目撃者が欲しいのか。



おすすめ度 : ★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損