2018年スウェーデン・デンマーク合作
110分

 これは10年に1本のとんでもない映画。
 解説を、論評を、評価を、比較を拒む、なんとも言い表しようのない“はじめて”の映像体験が味わえる。
 似たような映画を上げることすらできない。
 あえて上げれば、主人公ティーナの風貌から、ジーラ博士が登場する『猿の惑星』シリーズかジェームズ・キャメロン監督『アバター』(2009)であろうか。

 どういうジャンルに属するか決めることすら困難である。
 サイキックなのやら、差別がテーマの社会問題系なのやら、LGBT物なのやら、SFなのやら、怪奇ホラーなのやら、犯罪物なのやら、恋愛なのやら、スピリチュアルなのやら、ミュータントなのやら、哲学なのやら、エログロなのやら・・・・。
 今まで作られてきた何万本の映画によって形成されたジャンル概念を吹き飛ばしてしまう破壊力。
 「いったい、これは何なの!?」という叫びが出るのを押しとどめながら、鑑賞した。
 ウミウシものとでも名付けようか。


ウミウシ


 ある意味、これまでのメロドラマに対するアンチテーゼというか、ハリウッド流恋愛映画に挑戦状を叩きつけたというあたりが、もっとも当たっていそうな気がする。
 すなわち、「美男美女が運命的な出会いをし、互いの孤独を埋めるように惹かれ合い、すれ違いや勘違いを繰り返した末、嵐の夜に薪の燃える小屋でついに結ばれ、澄んだ池の中で裸で向かい合って濃厚なキスを交わし、美しい森の中を追いかけっこしては草の上に倒れてはげしく愛し合う。ところが男には女に隠していた暗い秘密があり、そのため犯罪事件に巻き込まれ当局に追われ、二人は結局別れなければならなくなる」――という“ありきたり”のメロドラマに対するアンチテーゼである。
 この映画の基本プロットはまさに上に書いたとおりで、ただ一つ違うのは、「二人は美男美女ではなかったのです」ということである。
 もしこれをハリウッドの美男美女(たとえば往年のニコール・キッドマンとトム・クルーズ)を起用してやったとしたら、凡庸過ぎて、陳腐すぎて、ありきたり過ぎて、「観て損したな」と思うのは必定である。
 二人の主人公が、男でもなく、女でもなく、美男美女でもなく、「美女と野獣(♂)」でもなく、「美男と野獣(♀)」でもなく、スタイル抜群でもなく、上品でもなく、賢くもなく、リッチでもなく・・・・すなわち、メロドラマにとうてい耐えられるようなヴィジュアルでも、恋愛映画の主役をはれるようなキャラクターでもないという点において、逆にすべてのハリウッド式メロドラマの偏移性・差別性(=美に対する異常な信仰ぶり)が暴露されてしまった感がある。
 
 観始めたころは「醜い」としか思えなかった主人公ティーナが、話が進むにつれだんだんと目に馴染んできて、観終わるころは「愛らしい」とさえ思えるようになっている自分を発見する。
 観る者は、物心ついてからメディアによって植え付けられている「ヴィジュアル信仰」に気づかされることになる。
 

 
おすすめ度 : ★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損