1991、1996年筑摩書房
2005年ちくま学芸文庫

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 帯の文句が大袈裟?

 ――と思うが、一読、多くの人が持っている日本の歴史観を大きく揺さぶる一冊である。
 この学者の名前はずっと気になっていたが、なぜか読む機会がなかった。
 
 日本の中世史、海民史の専門家である網野善彦(1928-2004)は、最近になって発見された非・官整の資料を研究するうちに、学会で長らく常識とされ、我々が教科書や歴史小説や映画やテレビドラマを通して学んできた日本の歴史観に大きな間違いがあったのに気づく。
 それは簡単に言えば、「百姓」という言葉は「農民」だけを指すのではなく、海や川や山などで働く非農業民をも含むものであること。日本は元来、稲作中心の農本主義国家ではなく、海民や山民、廻船人や商人の活躍してきた流通盛んなネットワーク型の非農業国家でもあることを、明らかにしたのである。
 
 確かに、教科書では「国民の大半(75%以上)は百姓(=農民)」と表記されてあったし、子供のころに観ていたNHK『明るい農村』、漫画『サスケ』や時代劇に出てくる年貢に苦しむ貧しい農民のイメージ、そして天皇による毎年恒例のお稲刈りや新嘗祭の報道によって、「日本は稲作の国、農民中心の社会(だった)」と刷り込まれていた。
 とくにソルティは、関東平野のまんなかに生まれ育ったので、海や山で働く人を身近に見ることはなく、生家の周囲は畑や空き地ばかりだった。(それがどんどん宅地に変わっていった)
 自然、自分の前世は「江戸時代の水呑み百姓」などと思っていた。
 が、本書によると、百姓=農民ではなく、水呑む百姓=貧民でもなかったそうである。

 考えてみれば、日本は周囲を海に囲まれた島国で、河川も多く、国土の多くが森林だったのである。
 気候さえ違えど、ノルウェー・デンマーク・スウェーデンなどのスカンジナビア半島によく似ている。(大きさも同じくらい)
 これらの国家でバイキングが隆盛をふるったように、日本でも海の民が海岸線や河川に沿って縦横無尽に商いしていたとしてもおかしくはない。
 農業的見地では辺鄙で農地も少なく貧しいはずと思われる北陸の海辺の村が、中世を通じて実は運輸と貿易で栄える豊かな都市であったなんて、思いも及ばなかった。

 子供の頃に学校で習ったことや受験勉強で必死に覚えたことがどんどん変わってしまい、時代遅れな知識や認識を持っていることに気づかされる昨今である。
 歴史を勉強し直す必要を感じる。

 鎌倉幕府の成立は1185年って知ってましたか?

いい箱つくろう
吾輩は頼朝じゃ



おすすめ度 : ★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損