1968年大映
89分
増村監督は70年代後半にお茶の間の人気をさらったTBS「赤いシリーズ」の演出や、堀ちえみ&片平なぎさの『スチュワーデス物語』、小泉今日子&石立鉄男の『少女に何が起ったか』の脚本などを手掛け、いわゆる大映ドラマの基盤をつくり上げた人である。
その特徴は、目まぐるしく荒唐無稽なストーリー、大げさな感情表現と棒読みゼリフ、えぐいほどのリアリティといったあたりにあった。
片平なぎさが風間杜夫の目の前で歯を使って手袋をはずす場面や、石立鉄男が当時人気アイドルだった小泉今日子に向かって「薄汚ねえシンデレラ!」とののしる場面など、強く印象に刻まれている。
増村節はしかし、彼が60年代に撮った映画の中ですでに炸裂していた。
ただし、若尾文子は名女優なので、堀ちえみや小泉今日子や能勢慶子のような棒読み感はさすがにないが・・・・。
元短距離走者の宮路司郎(=緒形拳)は、自分が果たせなかったオリンピック出場の夢を叶えるため、若く才能ある女子スプリンター南雲ひろ子(=安田道代)を見出し、女断ちまでするストイックさでコーチを務め、徹底的に鍛え上げる。甲斐あって素晴らしい100mタイムをマークするようになったひろ子であったが、日本スポーツ連盟の指示で受けたセックス・チェックで「女でない」と診断されてしまう。ひろ子は半陰陽(インターセックス)だったのだ。夢をあきらめきれない宮路は、ひろ子と二人で伊豆合宿し、昼は猛練習をほどこし、夜はひろ子を“女にする”ための訓練に打ち込む。
いやはや、凄い物語である。
最初のうちは『エースをねらえ!』のような男性コーチと女性選手の疑似恋愛&スポ根ドラマを想像していたら、あれよあれよとトンデモない方向に物語は走っていく。
緒形拳がこんな“ゲテモノ”映画に出演していたとは!
しかも、鬼気迫る熱演ぶり!
名優と言われるほどの人は、どんな役を与えられても精魂込めて演じるものなのだ。
ちなみに、“ゲテモノ”映画と言ったのは、半陰陽がテーマだからではもとよりない。
話の筋書きや細かい演出が、観る者の予測を上回る突飛さ・エログロさ・えげつなさ・テンションの高さで、あっけにとられてしまうレベルにあるからだ。
たとえば、伊豆合宿の最中に体調を悪くして崖から転落したひろ子に、宮路は駆け寄る。
すると、気絶しているひろ子の股の間から血が流れている。
それはひろ子にとって人生初めての経血であった。
「ひろ子、起きろ! ついにお前、女になったぞ!」
涙を流して喜び抱き合う二人・・・・・。
緒形拳とは『鬼畜』、『復讐するは我にあり』で共演している小川真由美が、宮路の親友峰重の妻・彰子の役で出演している。上品な着物姿に白い肌が映えて美しい。
これもまた、夫にはかまってもらえず、宮路に犯され、自殺未遂を繰り返し、しまいには気が狂ってしまうという異常な役柄なのだが、不自然を感じさせず演じきる小川の芸の幅を感じる。
はっきりとは描かれていないが、おそらく峰重はゲイで昔から宮地が好きなのだ。彰子の欲求不満はそのへんが原因なのだ。
そう解釈して観ると、より深い人間心理の綾が見えてこよう。
このDVDはレンタルショップのアダルトコーナーに置かれていた。
タイトルから勘違いされたのだろう。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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