1975年アメリカ
127分

 現在、日本各地で46年ぶりにリバイバル上映されている話題作である。
 宣伝資材には「映画史上最大の問題作」、「呪われた大作」、「最悪の映画」などセンセーショナルな煽り文句が冠されている。

 実際、酷い映画である。
 正視できない場面も少なからずあった。
 ただし、映画の出来が酷いのではない。
 内容があまりに残酷で、あまりにおぞましく、あまりに暴力的で、ヒューマニズムからあまりにかけ離れているので、「酷い」と言うしかないのだ。
 最後まで観てしまったけれど、鑑賞後にこれほど自分が穢れたような気分になった映画は最近珍しい。

マンディンゴ
『風と共に去りぬ」をパロった公開時のポスター

風と共に去りぬ


 物語は19世紀半ばのアメリカ南部。
 アフリカから連れてこられた黒人奴隷が売り買いされ、農場で酷使されていた。
 そう、『風と共に去りぬ』の時代。
 『マンディンゴ』を観ると、『風と共に去りぬ』の作者マーガレット・ミッチェルとヴィヴィアン・リー主演の映画の制作者たちが、いかに南部を美しく描いていたのかを痛感する。
 人種差別の醜い現実からいかに目を背け、白人の美男美女の壮大なラブストーリーに読者の関心を向けさせたか、その少女漫画のごときデイドリームぶりに呆然とする。
 こうして『マンディンゴ』を観てしまったからには、もう二度と『風と共に去りぬ』を心から楽しめないような気さえする。
 『風と共に去りぬ』が『オズの魔法使い』に、スカーレット・オハラがドロシーに思えてくるほどだ。

 主人公一家は“奴隷牧場”を経営している。
 これは黒人奴隷が牧場で働いているという意味ではない。
 優秀な奴隷を集めて飼育し、牛馬のように掛け合わせ、さらに優秀な奴隷を作って売る仕事なのだ。
 黒人は動物である。  
 だから、病気になった黒人を診るのは獣医である。

 『マンディンゴ』はカイル・オンストット著の同名小説がもとになっているのだが、リアリズムと言っていいのだろうか?
 どこまで史実に則っているのだろう?
 これだけのクズ白人がアメリカの地で大手を振って歩いていたなんて本当だろうか?
 それとも誇張や粉飾があるのだろうか?
 思わず問いただしたくなってしまう。
 スティーヴ・マックイーン監督『それでも夜は明ける』や、ソルティが子供の頃に観たアレックス・ヘイリー原作のテレビドラマ『ルーツ』の内容を踏まえると、史実と言っていいのだろうな・・・・。
 信じたくないような話であるが、目を背けてはいけないホモサピエンスの姿である。
 
 牧場を経営する主人は、リウマチを治癒するために、暇さえあれば床に寝かせた黒人少年の裸の腹の上に素足を乗せる、その母親の目の前で――。
 こうすると少年に体の毒がうつるから、と主治医がすすめたからだ。
 おそらく、映画史上最も醜悪なカットの一つに違いあるまい。
 (現代なら、このシーンの撮影すら許されないのではなかろうか)
 
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おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損