ピーク時は、夢にゾンビがよく出てきた。私は『ウォーキング・デッド』などのドラマが好きで、ゾンビに怖い印象は持っていないが、夢では夥しい数のゾンビが空を飛び回った。そのゾンビたちが一つの建物の中に吸い込まれていく。あ、見覚えのある建物だ、と思ったら、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院だった――。何度もそんな感じの夢を見た。
第3章では、内科と救急科の専門医、かつ世界一と言われるハーバード・メディカル・スクールで助教授をつとめるようになるまでの大内の履歴が語られる。
第4章では、アメリカの医療の仕組みが、日本との比較において語られる。
一つは、自覚症状がまったくなかった人すら、急激に悪化すること。その日の朝まで少しの発熱程度だったという人が、昼に非常に息をしづらくなり、家族の車で救急へ来る。昼まで倦怠感程度だったという人が、夕方には息も絶え絶えとなって救急車で搬送されてくる。コロナほど「徐々に」の三文字がない、他とは違う呼吸器疾患を、私は知らない。もう一つは、酸素飽和度が上がりにくいことだ。酸素マスクを使った場合でも、気管挿管をした場合でも、期待する数値には上がらない。
死んでいく人一人ひとりに、死に際してそれぞれの思いがあるだろう。また、間近に見送る近しい人たちにもいろいろな思いがあるだろう。ところが、新型コロナ感染症で亡くなるときには、誰もがたった一人だ。家族も友人も立ち会えない。誰にも看取られず、急激な病状変化の末に、たった一人で息を引き取る。ICUには家族も入れない。そればかりか、病院そのものが立ち入り禁止の時期も短くなかった。感染拡大を防ぐためには致し方ない。分かっている。しかし、なんと残酷な疾病だろうと、私は何度も何度も頭を抱えた。
一気に読み上げずにはいられない迫力と興味深さはともかくとして、ソルティは、格差社会の一面を切り取った『さいごの色街 飛田』、肉親のターミナルケアの模様を描いた『親を送る』、両ノンフィクションを書いた井上の甥っ子が、このような体験に遭遇するということに、何か不思議な因縁を覚えた。
おすすめ度 : ★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損