1998年原著刊行
2002年東京創元社より邦訳(越前敏弥・訳)
2024年新装版
飛蝗(ばった)と読む。
飛蝗を飼育している一人暮らしのキャロルの農場に、ある夜突然あらわれた身元不明の男、スティーヴン。
過去の記憶を喪失しているらしい。
キャロルは、自ら怪我をさせた彼に責任を感じ、家に泊めて介抱する。
治るまでという約束で。
治るまでという約束で。
二人の関係は次第に近づいていく。
だが、スティーヴンにもキャロルにも秘密があった。
著者は1965年イギリス生まれ。本作がデビュー作である。
処女作ならではの、持てる力をすべてつぎ込んだような力作で、500ページ近い。
読み出があるのは間違いない。
2003年「このミステリーがすごい!」の1位を獲得していて、今回の復刊は東京創元社創立70周年を記念してのことらしい。
評価の高い作品なのだ。
しかし、ソルティは読むのがしんどかった。
途中で放棄しようと何度か思った。
一番の理由は読んでいて募るイライラ感。
まず、語り口が凝りすぎていて、うんざりする。
冒頭から、「・・・・そこで目が覚めた」という、夢か現実かわからないシーンが繰り返されるので、物語に入り込みにくい。
読者を振り回す「夢オチ」の多用は、感心しない。
リアリティに満ちた細やかな描写は、純文学ならともかく、ミステリーとしては物語のスピードを止める効果しか生まないので、苛立たしく感じる。
次に、構成が複雑で、筋がわかりにくい。
農場におけるキャロルとスティーヴンの愛の物語を分断する形で、何者かから逃げる男の複数のエピソードが挿入される。
これが、時系列がよく分からないし、そのたびに男の名前が違うので、集中力が途切れる。
スティーヴンの過去を逆順に追っていることを、ちゃんと分かるように示してくれたら、これは回避できたはず。
最後に、プロットに無理がある。
元警察官だったスティーヴンは、自分を罠にはめ、連続猟奇殺人の犯人に仕立て上げた謎の人物からつけ狙われている、と思っている。
それがスティーヴンの逃亡の理由で、彼がキャロルに語った記憶喪失は偽りだった。
それがスティーヴンの逃亡の理由で、彼がキャロルに語った記憶喪失は偽りだった。
謎の人物は、スティーヴンの逃亡する先をなぜかつきとめ、奇妙な手紙やそれと分かる徴を正体が分からないよう送り届け、スティーヴンを脅かす。
途中までソルティは、スティーヴンは多重人格者で、元警察官で真面目な男の一面と、連続猟奇殺人を起こすサイコパスな一面とがあり、前者は自分の中に潜む後者の存在に気づいていないのだろう――そう推測を立てた。
ミッキー・ローク主演の『エンゼル・ハート』(1987年)のパタンである。
おそらく、ほとんどの読者はそう読むだろう。
多重人格のサイコストーリーは、もはや時代遅れと言えるほど陳腐になってしまったが、本作執筆は90年代なのでまだ通用した。
あとは、スティーヴンがどうやって自身が連続猟奇殺人犯であることを悟るかがクライマックスになるのかなと思っていたら、真相は違った。
なんとスティーヴンには双子の兄ケヴィンがいて、それがサイコパスの猟奇殺人犯だったというのだ。
正直、がっくりを通り越して、げんなりした。
いまさら双子トリック?
双子の兄が、警察官である弟に殺人犯の濡れぎぬを着せて、なおも国を超えて追っかけていた?
ちょっと設定に無理がある。
たとえば、兄ケヴィンはどうやって警察署に入り込んで、証拠物件に弟の指紋をつけることができたのか?(双子でも指紋は異なるので、ケヴィンの指紋では代替できない)
どうやって弟の居所をつきとめたのか?
どうやって生計を立てていたのか?
リアリティある細やかな描写は、謎の解明部分に関しては、残念ながら生かされていない。たとえば、兄ケヴィンはどうやって警察署に入り込んで、証拠物件に弟の指紋をつけることができたのか?(双子でも指紋は異なるので、ケヴィンの指紋では代替できない)
どうやって弟の居所をつきとめたのか?
どうやって生計を立てていたのか?
ジェレミー・ドロンフィールドがたいへん筆力ある作家であるのを認めるにやぶさかではないけれど、本作はミステリーとして、あるいはサイコサスペンスとして、成功しているとはとても思えない。
「このミス1位は当てにならない」という確証をまた一つ手に入れてしまった。
おすすめ度 :★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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