2020年廣済堂出版
人気沸騰の古代史ミステリー。
主人公は日本人の父とイタリア人の母を持つアメリカ人のケンシ(賢司)。
最近までゴールドマンサックスで働いていた40代の男である。
ある朝、ニューヨーク市警から一本の電話が入る。
「あなたのお父さんが宿泊していたホテルで何者かに殺されました」
子供の頃に別れたきり40年以上会っていない父親は、なにか大切なことをケンシに伝えるために、日本からやって来ていた。
ケンシは父親の殺された理由を解明するため、元同僚3人とともに日本へ旅立つ。
父親・海部直彦は、元伊勢と呼ばれる籠(この)神社の第82代宮司であった。伊勢神宮、諏訪大社、出雲大社、籠神社、下鴨神社、大神神社・・・・・。
日本各地の由緒ある神社を駆けめぐり、そこに仕込まれた父親からの暗号メッセージを順に読み解きながら、ケンシは日本書記にも古事記にも書かれていない日本誕生にまつわる秘密に近づいていく。
だが、その秘密を先に手に入れるべく、暗躍する組織があった。
殺し屋を使ってケンシの父親を手にかけた組織は、今度はケンシをつけ狙う。
伊勢神宮・内宮
祭神はアマテラスオオミカ三
祭神はアマテラスオオミカ三
2003年に刊行され世界的ベストセラーになって映画化されたダン・ブラウン著『ダ・ヴィンチ・コード』の日本版といった趣き。
日本の古代史や神道や神社、トンデモ本に興味ある人は楽しめるのではないかと思う。
ただし、これが伊勢谷のデビュー作というだけあって、小説としての出来は芳しくない。
構成にも章立てにも人物描写にも不手際が目立ち、リアリティに欠け、叙述は乱雑で、ご都合主義がはなはだしい。
構成にも章立てにも人物描写にも不手際が目立ち、リアリティに欠け、叙述は乱雑で、ご都合主義がはなはだしい。
『ダ・ヴィンチ・コード』と比較するのは、ブラウンに失礼であろう。
アイデアそのものは面白いのだから、もっと巧みな書き手によって読みたかった。あるいはマンガならちょうど良かったかもしれない。
実のところ、読みながら連想したのは『ダ・ヴィンチ・コード』ではなく、諸星大二郎の『暗黒神話』だった。
古代遺跡をめぐる少年の探索が宇宙的&仏教的結末に逢着する驚天動地の傑作『暗黒神話』を思わせる着想の奇抜さと飛躍的展開は、トンデモと分かっていても心躍るものがある。
登場人物に語らせるセリフの端々から、伊勢谷が保守右翼の愛国者であることが伺われる。
たとえば、下鴨神社の神職であった男・小橋のセリフ。
宗村、いい加減気づけよ。合理が一体、なにをもたらしたっていうんだよ。おまえのような合理崇拝の先にあったのは、文化や価値や道徳を破壊し、自由の名のもとに自由を抑圧し、寛容の名の下に他の意見を封殺してきたリベラルと称する全体主義や宗教さえ否定した共産主義じゃないか。日本人の力を削ぐために昔は神社で行われていた地域のミーティングを、戦後神社から切り離して日本中に公民館を建てまくったのは、ソ連にシンパシーを感じていたアメリカのリベラルだってことをおまえも知っているだろ?・・・(中略)・・・
なにも俺は不合理や反合理まで擁護するつもりなんて毛頭ない。でもいいか、非合理がおまえの好きな合理を守っているんだよ。伝統こそが自由や価値や道徳を守る最後の砦なんだよ。これこそがおまえがまだ気づいていない、気づこうともしない、あるがままの真実だ。
まったく、保守右翼の良心たる中川八洋先生のお言葉そのもの。
おそらく伊勢谷は、アメリカにあってはトランプ推しの共和党支持者、日本にあっては自民党右派で、同性婚にも選択的夫婦別姓にも女系天皇にも反対の立場と思われる。
そこで面白いのは、この小説の根幹をなす謎=日本誕生の真相が、伝統重視の国粋主義者からしてみたら、それこそトンデモない設定だろうという点である。
日本人が中国大陸からやってきた騎馬民族の後裔だとか、朝鮮からやって来た渡来人と原住のアイヌ民族とのハーフだとかいうならまだしも、シルクロードを渡ってやって来た〇〇〇人の血統を引いていて、日本の神様のおおもと=アマテラスの正体は〇〇〇だというのだから。
やっぱり、伊勢谷はたんなる右翼じゃないのかも。
ともあれ、本書を読んでいたら、神社めぐりがしたくなった。
今年は数十年ぶりに出雲大社に行きたいな。
出雲大社
おすすめ度 :★★
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損