2000~2008年集英社『ウルトラジャンプ』発表
2021年集英社文庫

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 バイオテクノロジーによる新種生物の創造が当たり前となった未来世界を描くSF。
 鶏とキャベツを掛け合わせたチキンキャベツ、ジャガイモに豚の遺伝子を組み込んだ肉ジャガ味のブタジャガ、オバサンの顔してオバサンの言葉で井戸端会議する鶏たち、ネズミの遺伝子が入り込んだペンギン(ミッ×ーマウスのようだ)、美しい女性の姿をした雑草、蝶の羽が生えた少女、アンデルセン童話から抜け出したような人魚・・・・。
 怪奇とエロスとグロテスク、ファンタジーとナンセンスの世界が繰り広げられる。
 初期の傑作短編『ヒトニグサ』や『生物都市』、それに『ど次元世界物語』を想起させる点で、原点復帰の諸星ワールドである。
 発想の奇抜さ、豊かな創造力、グロと恐怖の中に差し込まれるペーソスとユーモア、確かで印象に残るデッサンと構図、物語のテーマ性より絵力(えぢから)で勝負しているところなど、衰えることのないこの漫画家の才とモチベーションには感心のほかない。

 それぞれ話としては独立している6つの短編を、幕間劇やCMなどを挿入して、一つの世界につなげて有機的関連をつくる試みも成功している。
 自分を「ロボットの遺伝子が組み込まれた人間」と勘違いしているアンドロイドのサトルの存在が非常に大きい。
 人間に造られたロボットが、自分を人間と思い込み、さらにはロボットの遺伝子が組み込まれた人間と勘違いし、最後には完全にロボット化して動かなくなってしまう(事実は電池が切れたのであろう)。
 道化役としてのこのサトルの存在が、テーマ性を打ち出していないこの作品に、一種の切なさや悲しみをもたらしている。
 バイオテクノロジーの乱用で破滅の道をたどる人間の愚かさを静かに語っている。
 諸星の視線は、それをも自然の定め=無常と達観しているかのようだ。 




おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損