2008年原著刊行
2012年東京創元社(訳:金原瑞人、樋渡正人)

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 映画『カオス・ウォーキング』の原作で、3部作の第1部。
 原題の The Knife of Never Letting Go は、「ナイフを決して手放すな」といった意味合いだろう。
 故郷の村プレンティスタウンから逃亡した主人公の少年トッドが、肌身離さず持ち歩くナイフが、最後まで重要な役割を果たす。

 映画との大きな違いは、トッドの年齢設定。
 映画でトム・ホランドが演じたトッドは18~20歳くらいの青年だったが、原作では12歳の少年である。
 トッドが生まれてはじめて見た女性、一緒に逃げることになったヴァイオラも、映画ではトム・ホランドの初恋相手にふさわしく、同じ年頃の女性(演:デイジー・リドリー)であった。が、原作では「女の子」である。
 本作は、少年少女の冒険&成長物語なのである。

 英国発のYA(ヤングアダルト)小説ということで、読む前はちょっと軽んじていたのだが、これが大間違い。
 面白くて、謎めいていて、人間存在や社会や暴力や男女のジェンダーなどについて問いただし、皮肉るような哲学的・社会学的ところもあって、大人でも十分楽しめる。
 いや、大人こそ楽しめる。
 ジャンルは全然違うが、ミヒャエル・エンデの『モモ』みたいな感じ。
 一難去ってまた一難の、先の見えないスリリングな語り口は、スティーヴン・キングを思わせる。
 主人公がスーパースターでも強心臓でも賢くもないところが、かえって読者にイライラ感をもたらし、物語に捕まってしまう。
 第1部上下巻500ページをあっという間に読んでしまった。
 難しい言葉や表現の少ない、大きな活字の読みやすさは、さすがYA小説である。
 数々の国際的な賞をとっているのも納得した。 

 解説を書いている桜庭一樹は、ある場面で、思わず本を閉じて、気持ちが落ち着くまで1時間休んだという。
 きっと、あの場面だろう。
 自分もコーヒーブレイクした。

子犬
 


おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損