1979年ソ連
142分、カラー
ロシア語
この映画、80年代に都内のあちこちの映画館でリバイバル上映されていた。
米国アカデミー賞の外国語映画賞ほか、数々の国際的な賞をとっている評価の高い映画なのだが、ソルティはついぞ観なかった。
3人の女性を主人公とするソ連映画で、タイトルからしてメロドラマチックな印象だったので、ちょっと小馬鹿にして敬遠したんじゃないかと思う。
同じソ連映画なら、アンドレイ・タルコフスキーとかニキータ・ミハルコフといった重厚で哲学的な作品に惹かれがちだった。
高尚ぶった映画青年だったのである。
タイトルの『モスクワは涙を信じない』とは、「泣いても現実を変えることはできない」という意味のロシアの格言。
逆境にめげず希望を持って生きていく3人のモスクワ女性の友情と恋愛と苦悩の20年を、重すぎず軽すぎず、愛情ある眼差しをもって描いている。
登場人物ひとりひとりのキャラが個性的で、話の展開も軽快で小気味よく、二つの時代――50年代末と70年代末――のソ連の風俗も窺えて、面白かった。
特に第1部は、『セックス・イン・ザ・シティ』50年代モスクワ版といったところで、理想の結婚相手を探す女性たちの奮闘ぶりが、ユーモラスで楽しい。
セルゲイ・ニキーチンによる主題歌『アレクサンドラ』をはじめとする音楽も良かった。
公開当時、この映画が世界的評判になったのは、映画自体の出来の良さももちろんあろうが、これまで「鉄のカーテン」の向こうに隠れていたソ連の庶民生活が、ようやく世界に明かされたところにあったのではなかろうか。
第1部の舞台は1958年のモスクワ。
独裁者スターリンが亡くなって5年後、フルシチョフの「スターリン批判」から2年後である。
街は、自由を謳歌し豊かな暮らしを求める市民たちや、地方からモスクワにやって来て、「一旗揚げよう」「いい結婚相手を見つけよう」とする野心的な若者たちの活気であふれている。
第2部はそれから20年後、映画公開当時のモスクワ。
外見上は、欧米や日本とそれほど変わりない市民生活の様子が垣間見られる。
スターリンの圧政が終わり、雪解けして、重い鉄のカーテンを開いてみたら、そこには自分たちとまったく変わりない、夢や希望や孤独や野心や悲しみや優しさを抱き、暴力を嫌い、友や家族を愛するソ連の庶民の姿があった。(男尊女卑の風潮も同じ)
世界はそこに感動したんじゃなかったろうか?
アメリカのロナルド・レーガン大統領は、1985年にソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領と初対談するに際して、一般のロシア人の心を理解するために、この映画を繰り返し観たという。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
主人公の女性が執務室でTVインタビューを受けるシーン
壁に掲げられている写真は、スターリンでなく、レーニンである
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損