2022年三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売

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 今回は、57歳までキリンビールにつとめ、その後8年間、東京ディズニーランドでカストーディアルキャスト(清掃員)として働いた男の体験談。
 子育ても終わっている。退職金も並より高いだろうし、厚生年金もある。
 他の日記シリーズに見られるような、生活費を稼ぐために嫌でも働かざるを得ない境遇にはない。
 その点では、筆致には余裕があり、悲壮感はない。
 「勝ち組」の社会科見学、といったイヤミな感想がどうにも浮かぶのは、妬みか僻みか。
 もっとも、著者の態度や文章が「上から目線」というわけではない。
 
 ソルティは、オリエンタルランドが運営するディズニーランドにもディズニーシーにも行ったことがない。
 ディズニーには興味が湧かない。
 それに人混みが苦手である。
 何十分(何分?)というアトラクションのために、何時間も列に並んで待つというのが無理である。
 本書を読んで、「へえ、そうなのか~」と思ったことがいくつかあったが、それらは生粋のディズニーファンならば当然知っていることなのだろう。
 たとえば、
  • 非日常の世界観を守るため、パーク内では迷子さがしの放送を流さない。
  • カストーディアルキャスト(清掃員)に「なにを拾っているのですか?」と尋ねると、「夢のカケラを集めています」と答えてくれる。
  • 労働組合がある。
  • 大人たちが学校時代の制服を着てパークで遊ぶ「制服ディズニー」という趣向がある。
  • 従業員は、ミッキーマウスなどのキャラクターを「かぶりもの」と言ってはいけない。
  • 昭和30~40年代に『ディズニーランド』というテレビ番組があった(日テレ系列)
 定年退職後に何もすることがないまま、家にこもってテレビを観たり、近所の図書館で暇をつぶしたりという男性が多いなかで、孫世代の若い人や事情(ワケ)ありオバちゃんらに混じって一から仕事を覚え、ゲスト(来場者)を喜ばせる裏方仕事に徹する著者の姿勢には、学ぶべきものがある。

 オリエンタルランドはたくさんのゲストに日々、夢や感動を提供している企業である。そのことは誰も否定できないだろう。
 だからこそ、オリエンタルランドにはパークを支えるキャストのことをもっと大事に考えてほしいと願っている。

 そう、「夢の国」は、25%の正社員と、75%の非正規労働者によって支えられている。
 本書の一番の読みどころは、その実態を垣間見せてくれるところにある。





おすすめ度 :★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損